「約45分という時間枠が、内容を薄めるどころか凝集性を高める方向に作用している一作」Chime yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
約45分という時間枠が、内容を薄めるどころか凝集性を高める方向に作用している一作
黒沢清作品に対する「日常に潜む恐怖と狂気」という表現はいささか使い古されている感がありますが、本作を見た後だと、「それでも今までの作品は、場面と場面の間に余白を設けたり、段取りを設けてくれたり、いろいろ観客に配慮してくれてたんだな……」と思い至りました。
本作は劇場公開作品としては短め、とはいえ、日常の狂いっぷりはいささかも薄まってはおらず、むしろこの限られた時間枠の中に押し込めるだけの要素を詰め込もう、という黒沢監督の意思が透けて見えるようです。それだけ、一応本作の主人公的な立場にある松岡(吉岡睦雄)をはじめとした登場人物ほぼすべての、「とりあえず日常生活を送っているんだけど、折々に異常性が垣間見える」人々の狂いっぷり、そしてその狂気が噴出する脈絡のなさに、都度観客は終始不意を食らい続けます。これが45分間続くのは、映画の上映時間としては短くても精神的な疲労を催させるには十分すぎるほどの時間で、観終わった後に多くの人々はどっと疲れていることでしょう。
料理教室の一幕は割と予想がつくんだけど、それ以外の場面描写、例えば松岡の家庭が、一見すると穏やかで上品な雰囲気に包まれているんだけど、家族それぞれが狂気に侵されている、その表現の創意工夫はやはり新鮮。「日常的な動作に過ぎないのにそれをこんなに怖く見せちゃうんだ!」と改めて黒沢監督の手腕に驚いてしまうのでした。
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