「10年前の再現ができないのは、大人の事情だったのだろうか」ファンファーレ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
10年前の再現ができないのは、大人の事情だったのだろうか
2024.1.4 アップリンク京都
2023年の日本映画(85分、G)
アイドルグループのメンバーの卒業ライブに創設メンバーが手伝う様子を描いたヒューマンドラマ
監督は吉野竜平
脚本は吉野竜平&戸梶美雪
物語の舞台は都内某所
アイドルグループ「ファンファーレ」の創設メンバーで現行メンバーでもある西尾由奈(喜多乃愛)は、創設メンバーの大石万理花(水上京香)と須藤玲(野元空)に、自分の卒業ライブの振り付けと衣装係を頼もうとしていた
マネージャー・内田(松浦慎一郎)の立ち合いのもと、玲は所属するデザイン会社として参加し、万理花はフリーランスとして関わることになった
現行メンバーは由奈の他に武地凛(橋口果林)、有川桜子(江崎未夢)、辻千波(白井美海)、尾関あずさ(外原寧々)の合計5人
現在のグループの振り付けは千波が担当し、ライブはコロナ禍の影響を受けて、スタジオから生配信という流れになっていた
物語は、卒業メンバー二人のセカンドステージをメインに描き、由奈の卒業の理由は描かれない
万理花はダンススキルが認められていて、基にダンサーとして世界に羽ばたきたいと考えていた
玲は衣装デザイナーになりたくて、社会人として働き始めていたが、入社2年目ではやりたいこともできず、精神的に落ち込んでいる状態
本作では、アイドルの卒業後を描きつつ、その難しさを描いている
卒業2名は8年間、由奈は10年間アイドルを続けてきたわけで、それなりの人気が遭って続いてきたと思うのだが、アイドルを辞めたらその看板はほぼ使えないものになってしまう
それぞれが求められるのは、ダンサーとしての技量、覚悟、責任感だったり、社会人としての基本的なマナー、組織の中で動く人材としての能力だったりする
それらがアイドル時代に学べるわけもなく、芸能界で別の生き方をする方がリスクは少ない
とは言え、昨今のアイドルグループの乱立と卒業後に生き残っている人数を見ると、若い時代に爪痕を残せるだけ残して、その後は全く違う人生を歩むというのが正解のようにも思えてくる
映画では、日常のうまく行っていない部分が露出し、それぞれが棘を持って相手に接していく様子を描いている
彼女たちは変わろうとしているものの自分中心の若者であり、玲の先輩・加奈子(土井志央梨)や、スクールのオーナー・君塚(中島歩)からの「大人の言葉」が響くにはまだ早い段階のようにも思える
アイドルを辞めて2年目、社会人としては走り出した頃で、理想と現実が違うように思えるのは、いかに表面的なものしか見てこなかったと言っているのにも等しい
アイドルで評価されたスキルとは真逆のものが求められていて、特に玲がこれまで着てきた衣装にどれだけの手間と人員が関わっているかを見てこなかった結果となっている
表舞台に立っている者は、それを支える数百人にも及ぶ人々の代表として立っているわけで、その存在が認められているのは個人の力ではない
そのあたりが見えていないのが若者であるが、30歳にもなっても変わらないのは、個人的な力量なのか、代表者として評価された過去が勘違いさせるのかは何とも言えない部分があるように思えた
いずれにせよ、コロナ禍設定のために派手なコンサートシーンがないのが残念で、創設時の活躍とか、グループの世間的な評価がどんなものかは知りたかった
それぞれが個々にダンスするシーンは描かれるものの、水上京香と須藤玲のフリフリアイドル衣装ダンスを見てみたかったなあというのが邪推な本音である
全力で反対されてそうだが、現行メンバーよりもスキルも存在感もあったからこそ今があると思うので、絶頂期が描かれてこそ哀愁を感じられるのかなと思った