「真夏の白夜の童夢。 愛猫家は観ない方が身のためですニャ…。」イノセンツ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
真夏の白夜の童夢。 愛猫家は観ない方が身のためですニャ…。
団地に住む子供たちの秘密の遊びが次第に狂気を帯びてゆく様を描いたスーパーナチュラルホラー。
ノルウェーからの刺客が日本に上陸。北欧の映画には馴染みがなかったのだが、なるほどこれはハリウッドのものとも日本のものとも違う味がする。
夏休みシーズン真っ盛りにも拘らずどこか寒々しい空気が漂っており、白夜の影響で夜でも太陽の光が差し込んでくるという、高温多湿の日本の夏とは全く異なる世界。その幻想的な雰囲気と、疎外された子供たちによる無邪気ながらも残酷な“禁じられた遊び“が一体となり、映画全体の不穏さが1分1秒ごとにどんどん増してゆく。まるで研ぎ澄まされたナイフの刃の様に、白く鋭い切れ味を持った危険な作品である。
さて、監督のエスキル・フォクトは、とある日本の漫画が本作に影響を与えたとインタビューで語っている。その作品とは…そうあの巨匠・大友克洋が生み出した歴史的傑作「童夢」(1980-1981)である。
…いやいやいやいや。これ影響を受けたとかそういう次元じゃないと思うんですけど😅
まぁ確かにお話の筋は全然違うし、最初は「団地」と「超能力を持った子供」くらいしか共通点はないかな、なんて思っていたんだけど、映画が進むにしたがってだんだんと「童夢」濃度は高まってゆく。クライマックスの静かな決闘シーンなんて、はっきり言って丸パクリ。これ大友先生、訴えれば勝てるんじゃ?
イノセントゆえの暴力性という、認めたくはないが確実に我々の周りにも存在している悍ましさを描いていると言う点で、本作はホラーというジャンルの枠を越えた普遍的なメッセージ性を持つ映画になっている。「童夢」では団地で巻き起こる怪奇事件の犯人は頭のボケた老人のチョウさんであり、彼もまた無邪気ゆえの残酷さを読者に見せつけたのだが、やはりその犯人の役割を本物の子供に負わせた本作の方が、より悲しく、救いようのない物語になっている様に思う。
画作りもクールだし、容赦ない恐怖演出と生理的嫌悪感に満ちた残酷表現は観客の目を惹きつける。事程左様に、本作は決して悪い映画ではない。しかし、相手は日本漫画界が誇る大横綱「童夢」である。パクリギリギリのインスパイアによって成り立っている以上、どうしたってこの2作は比較せざるを得ない訳で、そうなるとまぁやはり「童夢」に軍配が上がる。
と言うのも、「童夢」ってなんだかんだで滅茶苦茶エンタメ性が高い漫画で、団地内でのカオスな殺戮シーンなんてもう死ぬほど面白い。そのエンタメ的な面白みを全くコピー出来ていないというのは、やはりいかんと思うのです。どうせパクるなら、サイキッカー同士の死闘から団地の崩壊まで、きっちりと描き切って欲しかった。あのチョウさんを円形の見えないエネルギーによって壁にめり込ませる伝説の「ズン」シーンは映像で見たかったぞ!
「童夢」の圧倒的な画力と構図、ストーリーテリングが三位一体となった非の打ち所のない完成度は、おそらく全漫画史上最高。これに比べれば1億部以上売り上げたあの漫画も、アニメが空前の大ヒットを記録したその漫画も屁の様なもの。まっったくレベルが違う。
世間的には大友といえば「AKIRA」(1982-1990)という事になるのだろうが、本当に凄いのは「童夢」だから!「AKIRA」6巻分の面白みが1巻にギュッと濃縮されている、正に歴史に残るマスターピースである。まだ読んでいない人は今すぐ本屋へGO🏃💨
最後に一点、愛猫家なら間違いなくトラウマになってしまう動物虐待シーンがあるので、そこは覚悟して観る事。私はそのシーンがキツすぎて、マジで観るのを辞めようかと思いました。
映画の中で人間が死んでもなんとも思わないけど、動物が死ぬのは堪らなく辛い…。特に猫とか犬とかそういう愛玩動物を殺すのはダメ、ゼッタイ!!あのシーンを平気で観られる奴は人間じゃねぇ💢
と言う訳で、愛猫家の方は特に、本作ではなく「童夢」を読みましょう。こっちは虐待シーンがないので安心です😊…かわりに人が死にまくるし血もプッシャーって吹き出すけど。
