「悲しみと恐怖が言い伝え続けられる限り」ブギーマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しみと恐怖が言い伝え続けられる限り
“ブギーマン”と言うと『ハロウィン』でも形容されているが、勿論あの殺人鬼の事ではない。得体の知れない恐怖という意味では通じるが。
元々はアメリカや世界中で子供たちが恐怖する民間伝承上の怪物。日本で言う所のお化けや妖怪。
映画のみならず幾つもの題材になっている。
本作はスティーヴン・キングの短編小説に基づく。
母親を亡くしたばかりの父親と姉妹。悲しみから立ち直れない。
父親は精神科医。怪しげな男が患者としてやって来た事から…。
末の妹は家の中にいる“何か”に怯えるようになる…。
キング印だが、プロットや規模的にはB級の類い。
が、侮ってはいけない。本作、暗闇演出が巧い。
クローゼットの中、ベッドの下、ドアの陰、真っ暗な廊下の先…。
その暗闇の中に、何かいる…。
そこに何かいると思わせる。想像させてこその恐怖。びっくりどっきり脅かしのホラーとは違う。
ブギーマン自体も言わば、子供の想像の産物だ。
でも、子供にとってその恐怖は本物だ。
そんな恐怖を具現化。
さらに、周囲が信じてくれない。大人は判ってくれない。
それも怖い。
子供が言う事は嘘ではない。寧ろ、大人より見据えている。
この家族は母親を亡くした悲しみが覆い被さっている。
末の妹はその悲しみから在りもしない“怪物”を見ている…とセラピストは言う。
姉はライターを点けて母親に語り掛ける。ママ、居るなら火を動かして。
父は悲しみを乗り越えようと妻の物を片付けようとする。無論、娘は反発。
深い喪失。そこに、ブギーマンの脅威。
だが、いつまでも悲しみ苦しんでいてはいけない。
それを乗り越える。ブギーマンとの対峙はそのメタファー。
光りに弱いブギーマンに、姉は再びライターを点ける。その時、火が揺れ動き…。
見えなくてもここにいる。残された者たちも手を取り合う。家族の絆。
ブギーマンは特定の姿はない。本作ではチラッチラッと姿を見せ隠す中、怪物のような造型。
序盤や中盤は想像で恐怖させ、終盤は化け物ホラー風。
エンタメ・ホラーとして手堅い仕上がり。
主人公ソフィー・サッチャーが魅力的でもあり、目力が印象的。
妹ちゃんがキュート。
序盤の怪しげな男もブギーマンに娘を殺された。
おそらくこの男の悲しみに取り憑き、悲しみ抱える次の家族へ。
倒したように思えるが、ブギーマンを永久に消す事など出来るのか…?
悲しみと恐怖が言い伝え続けられる限り…。