「現代日本にも突き付けられた移民に関するお話」不安は魂を食いつくす 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
現代日本にも突き付けられた移民に関するお話
1974年に西ドイツで製作された映画でした。Bunkamura渋谷宮下で、ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の特集をしており、観る機会を得ました。テーマ的には、移民にまつわる差別や労働問題、移民との愛情や結婚、年の差婚など、社会問題から極私的な分野に至るまで多岐に渡っていました。
中々興味深かったのは、半世紀前の西ドイツの映画でありながら、現代日本にも相通じるテーマ性を持っていると感じられたこと。少子化による労働者不足により、ここ10年程度で日本でも移民が飛躍的に増え、それとともに移民労働者に対する差別的待遇を中心に、それなりに報じられてきました。日本にとっては比較的新しい問題ですが、ドイツでは半世紀も前からこうした問題が社会に蔓延していたらしいことが読み取れた訳です。
主人公のエミは、夫に先立たれ、3人の子供もそれぞれ所帯を持って今は一人暮らしをする60代の女性。そんな彼女がひょんなことで知り合ったモロッコ移民のアリと結婚すると、3人の子供はもとより、アパートの隣人、近所の食料品店主、職場の同僚に至るまで、エミを蔑むようになります。ナチスドイツの反省に立って戦後歩み始めたはずのドイツでも、移民に対する強烈な差別意識は社会の至る所に残っていることを平然と告発した本作は、中々度胸があるとしか言えません。
さらに面白いのは、そんなエミが、自分の親も自分もナチス党員だったことを何の屈託もなくアリに告白し、ヒトラーが通ったというレストランに2人連れだって食事しに行くなど、差別で悪名高きナチスやヒトラーに懐かしさすら覚えていたのに、アフリカ出身のアリには深い愛情を感じていたということ。この辺りのアンビバレントな描写が、一層登場人物を立体的に感じさせてくれたように思います。
最終的には、エミを一時遠ざけていた彼女の子供やアパートの隣人、食料品店の店主、職場の同僚などが、それぞれの打算的な理由でエミに妥協的な態度を取ると、逆にアリの精神が崩壊してしまう逆転現象が起きる。この辺りのダイナミズムも本作の最大の魅力だったように思います。表面的な妥協は成立しても、本質的な解決に至ったようには見られないところでエンディングを迎えます。移民が増え続ける現代日本にあっても、我々がどういった態度を取るべきなのかを考えさせてくれる秀作でした。