「多様性時代の騎士とモンスターガール」ニモーナ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
多様性時代の騎士とモンスターガール
あらすじだけを読むと、中世時代のような話。
映像を見ると、SFチック。
一体全体、どんな作品…??
昨年も『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』『ジェイコブと海の怪物』がアカデミー賞でアニメ映画賞にノミネート、『~ピノッキオ』に至っては受賞。今やディズニー/ピクサー、ドリームワークス・アニメーション、イルミネーション・スタジオに引けを取らぬほど良質アニメーションを送るNetflix。またまたユニークで斬新なアニメをお届け。
まずは気になる設定や話。
昔々、ある王国。闇=モンスターが襲い、脅威に晒された時、一人の騎士が立ち上がった。その騎士の名は、グロレス。モンスターを討伐するも、いつまた現れるか分からない。グロレスの意志を継ぎ、騎士たちが伝統と共に英雄視されている。
1000年後。中世と近未来が融合したような世界。この世界観が奇抜。
生活様式や雰囲気は中世のようだが、ハイテクが浸透。甲冑に身を包んだ騎士が存在する傍ら、武器は剣ではなくビーム銃など。馬ではなく、バイクや車や戦闘機に乗って。スマホやSNSも通じている。ノリノリな現代曲も溢れてて。何ともパンク!
騎士になれる者は血筋やそういう家柄に生まれた者のみ。
が、異例の騎士が誕生しようとしていた。
庶民の出のバリスター。孤児で、出生も生い立ちも謎。
そんな庶民からの初の騎士のバリスターを、世間は賛否。騎士内でも高慢な騎士は見下すも、グロレスの子孫のアンブローシャスは応援。
国中が見る任命式。思いの外、歓迎。
女王や騎士学校の校長からも期待。
新時代を担う騎士の誕生…その時、事件は起きた。
バリスターに手渡された剣から光線が放たれ、女王を直撃。
呆然とするバリスター。何が起きた…?
が、国中はそう見ていなかった。
女王が殺された。アイツが殺した。庶民の出を騎士なんかにするから。
期待の騎士から一転、女王殺しの大罪人。
追われ、身を隠すバリスター。すっかり落ちぶれ…。
そんなバリスターの前に現れたのは…
一人の少女。
口から産まれたかのようにベラベラ喋るわ、超ハイテンションな性格だわ。突拍子もない言動。何者…??
名は、ニモーナ。
見るからに普通の少女じゃない。
神出鬼没で、様々な姿に変身出来る。
それもその筈。彼女の正体は、モン…おっと、それ以上言うのはご法度。
彼女が近付いてきたのは、自分と同じと思ったから。自分と同じ嫌われ者=ヴィラン。
え? ヴィランじゃないの?
真犯人探し? じゃあ、復讐だね。
何だかんだで犯人探しをする事になった珍コンビ。
とにかくニモーナのブッ飛びキャラが最高!
我が道を行くの怖いもの知らず。
イケイケ!ゴーゴー!
基本少女姿だが、サイにダチョウにクマにクジラにゴリラに変幻自在。可愛い子供の姿にだって。
リアクションも多彩。特に子供姿時に浮かべる悪魔の笑み。
翼を生やして空だって飛べる。
さすがはモン…おっと、言っちゃいけない。
それだから何?
普通って何?
ブッ飛びキャラに見えて、訴える事はストレート。痛快なくらい。
声担当はクロエ・グレース・モレッツ。そのまま実写で見たいくらい。
真面目な性格のバリスターとは水と油。
最初は振り回され、寧ろ面倒になり、ほとほとうんざり。
が、国中がバリスターを犯人と決め付ける中、ニモーナだけ信じて味方。
共に行動する内に芽生える絆。
ブッ飛びな性格だったニモーナはバリスターの影響で少しずつ真面目な性格に。
真面目な性格だったバリスターはニモーナの影響で徐々にラフな性格に。
お互い補い合って。感化し合って。
その様がとってもナチュラル。
いつしか頼れる相棒に。
犯人探しも疎かにされていない。
重要証人から聞いた衝撃の真実。
真犯人は、騎士学校の校長。剣をすり替え、バリスターに罪を着せた。
バリスターとニモーナの奇策で、校長の自白動画を撮り、それをSNS上に。
遂にやっと濡れ衣を晴らせた。
ところが、この校長がクセ者。動画の自分はモンスターが化けた偽者と主張し、身の潔白を訴える。
盟友アンブローシャスもどちらを信じていいか分からない。
俺の事を信用しないのか…? ショックを受けるバリスター。
追い討ちを掛けるように、ニモーナへの信頼が揺らぐ事が。
かつて国を襲ったモンスター。そのモンスターの人間時の姿が、ニモーナそっくり。
ニモーナは本当に…モンスターなのか?
モンスターだったら何なの? モンスターなのが悪いの?
アンタもこの国の人たちと同じなの…?
明かされるニモーナの過去。
幼い頃、森の中でたった一人孤独だったニモーナ。
そんな時出会った一人の少女。初めての友達になる。
クマの姿になって遊んでいた時、大人たちが…。
アイツはモンスターよ!
それでも友を信じていたニモーナだが、少女は剣を向ける。
どうして? どうしてなの、グロレス?
伝説の騎士グロレスの精神によって築き上げられた国。
平和と秩序が保たれているように見えて、その実は差別や偏見、偽りによって塗り固められ…。
長年、誰もが信じ、絶対と思っていた事。
それが本当は正しくない事もある。歴史や伝統が全て正しいとは限らない。
同じNetflix製作の昨年のアニメ『ジェイコブと海の怪物』と通じるものを感じた。
偏見の目で見ず、自分自身の目で、誰を何を信じるか。
孤独の闇に呑まれ、巨大モンスター化してしまったニモーナ。
彼女はこのままモンスターに成り果ててしまうのか…?
息の根を止めようと命令を下す校長。
誰が本当のモンスターなのか…?
その時、バリスターは…?
中盤の追う騎士団から逃げるバリスターとニモーナ。ニモーナの変身能力も相まって、ハイテンポなアクション。
クライマックスの巨大モンスター化したニモーナは、怪獣映画の雰囲気充分。
差別や偏見への訴え。
立場や種族を超えた友情。
勧善懲悪ではないストーリー。
ユニークな話は子供には充分楽しく、深いメッセージは大人にこそ訴える。
元々『アイス・エイジ』などの20世紀フォックス傘下のアニメーション・スタジオ“ブルースカイ”で製作される予定だったが、ディズニーによる買収劇で頓挫。それを拾ったのが、Netflix。
原作となるグラフィック・ノベルあり。同原作者の別作品はドリームワークス製作で同じくNetflixでシリーズ化されているとか。(『シーラとプリンセス戦士』)
どちらも原作者の意思が色濃く反映されているとか。
と言うのも、原作者が同性愛者。
紆余曲折あって完成した本作はアメリカで大絶賛。
その大絶賛の理由はそれもあるのかもしれない。
言うまでもなく、現ハリウッドの必須要素、多様性。
バリスターは有色人種。
加えて、同性愛者。アンブローシャスとは想い合っている。
が、序盤ではバリスターは同性愛者である事を隠している。アンブローシャスとは秘密の仲。
周囲とは違い、世間から弾かれ、心の奥底では孤独を抱えている。そんなニモーナは性的マイノリティーの体現。
何だ、またポリコレかよ…と一緒思うが、
原作者のメッセージが反映されているのだから、押し付けがましいディズニーのそれとは訳が違う。
何事も切実に訴えれば自然と心に響くのだ。
斬新に見えて、実はしっかり王道な作り。その絶妙なバランス。
ディズニーより遥かに巧みな多様性へのメッセージ、胸打つ友情…。ラストシーンもいい。
誰もがバリスターとニモーナの物語に魅了される筈だ。