劇場公開日 2023年8月19日

「真正面から「ホムンクルス幻想」をストップモーションの題材として扱った、珠玉の短編作品!」骨 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0真正面から「ホムンクルス幻想」をストップモーションの題材として扱った、珠玉の短編作品!

2023年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『オオカミの家』と併映で公開されている、15分程度の短編。
『オオカミの家』を観て大いに感動したアリ・アスターが、製作総指揮として全面的にバックアップして作られたという。

1901年のファウンド・フッテージ(発見された古いフィルム)という体裁をとって、三つ編みの少女(バレエを踊る操り人形)が呪文を用いて二人分の骨から人体を復活させ、さまざまな形で玩弄する様を、ストップモーション・アニメーションで描く。
復活させられる二人、ディエゴ・ポルタレスとハイメ・グスマンは著名なチリの政治家であり、少女人形のコンスタンサ・ノルデンフリーツはポルタレスの長年の愛人で、正妻にはならぬままポルタレスとの間に三人の子供をもうけたらしい。ゆえに本作には政治的な含意も間違いなく認められるはずだが、こちらは門外漢ゆえ、そのあたりには敢えて言及しない。

内容上は、「這いまわる骨」「歌う頭蓋骨」「踊る骸骨」といった民話的・童話的なシチュから、再生した二つの首を抱きかかえる「サロメ」っぽいシーン(札幌の首狩り事件風)まで、奇怪なビジュアル・イメージを順に積み重ねつつ、本質的な部分ではいわゆる「ホムンクルス幻想」「フランケンシュタイン幻想」(=人造人間へのあくなき夢)を、ど真ん中から扱った短編作品に仕上がっているといってよい。

動き回る骨と、クレイで表現される頭部は、明らかにヤン・シュヴァンクマイエルのストップモーション・アニメーションの影響下にあるといえ、とくに「男のゲーム」や「対話の可能性」「自然の歴史」あたりがおおいに霊感源となっているふうに見える。少女のほうの人形の造形も『ファウスト』を思わせるところがあるし。

最初、クレイアニメなのに、なんでパーツごとに針金がついてるのかな、あやつり人形として撮影しているパターンもあるのかな、と思っていたら、これって後半に「少女が復活させた政治家のゾンビ人間2体をさまざまに操って見せる」ことへの前振りだったんだな。
で、少女人形自身にも糸がついているのは、おそらく彼女もまた何者かに操られて、踊らされているといった含意だったりするのか。

技巧的にはオーソドックスなクレイ&パペットのこま撮りなんだけど、ときに「ビーム、ビ~~~」とか「キラン!」みたいな、漫符みたいなのがたまに出たり、少女の人形に描かれた表情がふっと笑ったりするのには不意を突かれてドキっとした。

この作品が、端的にストップモーション・アニメーション好きの心にぐさりと突きささるのは、扱われているテーマ(錬金術におけるホムンクルス幻想・カバラにおけるゴーレム幻想・オカルト医学におけるフランケンシュタイン幻想)と、こま撮りアニメという制作技法が、そのまま綺麗に重なり合っているからだ。
すなわち、突き詰めれば、こま撮りアニメというのは「モノ」に魂を吹き込む「魔術」そのものなのであり、この少女が行っている人体召喚儀式というのは、ストップモーション・アニメーションの製作工程のアナロジーに他ならないのだ。
動くはずのないものを動かし、そこに「命=心臓」を与える。
その幻想を、ここで作り手と登場人物は分かち合っている。

もう一点、重要なことがある。
「モノに魂を吹き込む魔法」を生み出すのは、辛気臭い理想主義や正義心などではなく、子供じみた「稚気」だったり、半ば「よこしま」なくらいの「悪戯心」だったり、衝動的で性的といってもいいような「純粋な欲望」だということだ。
これまた、ストップモーション・アニメ製作者と、この少女人形の双方に共通するモチベーションだ。
一こま一こまオブジェを動かしながらフィルムを撮ってゆく作業自体は、きわめて地道で生真面目で根気強いものではあっても、それを支えているのはむしろ「不真面目さ」であり、「遊び心」であり、死から生を生みだそうと願う「邪心」であり、神をも恐れぬ所業に挑む「罰当たりな思い上がり」なのだ。

そのあまりの不敬さと、あまりの神への挑発的姿勢ゆえに、この「魔法」はたとえ成功しても永遠のフェイズに固定化されてはいけない。
一度動かした「モノ」は、命を与えたままで捨て置いてはいけない。
だからこそ、少女(の人形)と復活したポルタレスとの「死後婚」の書面は、逆回しのサインによって無効化されるしかない。僕はあのラストをそういう風に理解した。

『オオカミの家』がきわめて斬新な「ひと時たりとも留まらない不安定さ」を突き詰めているのに対して、「骨」はよりプロットが簡素だし、技法的にもオーソドックスだし、ラスト以外はだいたい何をやっているかも理解しやすい。

というわけで、レオン&コシーニャの入門編としては、
ちょうどいい作品なのではないかと思う。

じゃい