「ある意味、Bildungsroman」哀れなるものたち けろ教授さんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味、Bildungsroman
クリックして本文を読む
それとも幻想的「女性解放」映画というべきか。「好きなように生きさせてよ」というベラの主張は至極真っ当で、そんな女性には自分を拘束する社会道徳も男も不要である。実際のところ男の観点から言っても、船にベラを閉じ込めようとする弁護士ダンカンも、家にベラを閉じ込めようとする将軍アルフィーも、同情にまったく値しない。洋の東西を問わず、女性を囲う「昭和のおっさん」には、ラストがヤギ男のこの映画がホラー映画であることは否定しない。他方で、草食男子と肉食系女子が増えている21世紀の現代においてこのテーマが時宜に適うかと言われれば、そうでもない。
テーマが今更ながらの「ウーマン・リブ」ではあるが、観客を飽きさせないのは監督のランティモスの悪趣味のせいであろう。『女王陛下のお気に入り』はドン引きするほどの精神的悪趣味が満載だったが、『哀れなるものたち』では露骨なまでの映像的悪趣味が満載である。もちろんエマ・ストーンの体を張った演技が悪趣味という訳ではない(本作は間違いなく彼女の代表作となる)。豚鶏だの鶏犬だのゴッドの創造物は映像的にじわじわ来る。
アカデミーの結果に関係なく、よくも悪くも本作は「怪作」である。一方で、評論家の評価が高いのはよく分かる。他方で、人に勧めることができるかと聞かれると、だいぶ考える。妻には「すごいものを見せられた」と言っておいた。多分、これがこの作品の本質である。
コメントする