哀れなるものたちのレビュー・感想・評価
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自分の感性を試してみたい方にお勧めの映画です♪
最近の米アカデミー賞受賞作品には少し疑問を抱いていたところ、アカデミー賞11部門ノミネートとの本作品。正直鑑賞を迷いましたが、結果からいえば観ておいてとてもよかったと思います。鑑賞後の後味的には第94回日本アカデミー賞作品賞など受賞の「ドライブ・マイ・カー」を観た後に似ています。「やられたー」とか「そうきたかー」といった類の言葉で正しいのかは分りませんが、とにかく鑑賞前と鑑賞後ではあきらかに違う自分になる、心の奥底にズドンとした衝撃を持ち帰ることになる作品。とはいえR18+で性描写やグロテスクな描写も多々あり、誰にでも刺さる映画とは言い難い内容ではあります。
【本作品をおススメしたい方は以下の人】
・アカデミー賞ノミネート(受賞)作品は欠かさず見ている映画好きなあなた
・何かしらの束縛から自由になりたいと日々感じているあなた
・もしかして自分こそが「哀れなるものたち」ではないかしら?なんて一瞬でも思ったことがある、感受性豊かなあなた
モノクロになったり、カラーになったり、空想の世界になったり豊かな映像美と、巧みな不協和音で観るものの感情を揺さぶる音響、主演エマ・ストーンの体当たり演技など、とにかく見どころは満載です。
週末レイトショーで
一人静かに、
じっくり、
どっぷり
鑑賞するのが
おススメです♪
ファンタジックな舞台美術とアートな衣装に圧倒される幻想のフェミニズム成長譚
とある時代の男性優位の風潮から、純粋さ故に空気を読まずはみ出してゆく、見た目は大人頭脳は子供の女性ベラの物語。
現実の女性が感じる自己認識と社会から求められる姿の齟齬や、成長のための格闘をフェミニズム的な視点でかなり戯画化して描いているように見えた。物語のテーマ自体はスタンダードだ。
舞台美術や衣装などで圧倒されるような独特の世界観が作り出されていて、アーティスティックで敷居の高い作品と思いきや、意外と分かりやすい話で、節々で結構笑えた。特に、遊び人の弁護士ダンカンがベラのド直球な振る舞いに翻弄されまくるくだりは、ところどころコントのようで面白かった。
ベラは「生まれた」瞬間から、世間の風習や常識に一切触れることなく、ゴッドウィンによる養育という特殊な環境下で育った。だから、欲望や感情の赴くままにふるまうし、セックスに関することにも恥じらいや罪悪感がない。最初は遊びのつもりでベラに近づいたダンカンが彼女の虜になってしまうのは、真に解放された人間の姿を彼女に見たからではないだろうか。それまでの彼は多分、自分こそが自由人と思っていただろう。その観念が、ベラによってくつがえされた。
ダンカンとの旅の中、ベラはさまざまに見聞を広めてゆく。客船で出会った老婦人マーサとの出会いで、まるで「アルジャーノンに花束を」のチャーリーのようにみるみる語彙が豊かになる。自分たちが旅する街のはるか下方に住む貧民と、赤ん坊の死体の山の存在を知り、ダンカンの金を勝手に彼らに恵んだことから、パリで彼と別れて自立のため娼館で働くことになる。
娼婦になったといっても、自分の体を粗末にしているような印象や、卑屈さといったものはベラにはない。彼女はもともと快感に貪欲だからか仕事に抵抗感がなく、客と人間同士の関係を築こうとし、「女性側が男性を選ぶ」システムを提案したりもする。選んだ道にポジティブに関わる姿勢がベラにはある。彼女の身体の使い方を決める権利は彼女自身のもので、他人に簡単に否定される筋合いはない。
やがて彼女は医学を学び、社会主義思想に傾倒する。資金を得てロンドンに戻り、マックスと結婚しようとしたところにやってきた元夫のブレシントンに一度はついていくが(なんでだよ)、女子割礼をされそうなことがわかって夫を撃退、彼の頭にヤギの脳みそをぶちこんでハッピーエンド(!?)。ベラになる前の彼女を自殺に追い込んだような男なので痛快なラストと言えるだろう。いや、ヤギがかわいそうかも。
エマ・ストーンが大熱演。シュールな設定、ファンタジックな風景やインテリア、華やかでアーティスティックな衣装に埋没することなく、ベラという強烈なキャラクターを演じ切った。
ベラが行く先々に広がる幻想的な風景は、ブダペストに作られた巨大セットで、一通りめぐると30分はかかるほどの広さだという。1930年代をベースにしつつ近未来的要素も混在し、細密なタッチの絵本を見ているようなわくわく感があった。
衣装もとにかくお洒落。ベラの衣装に共通する特徴である強調されたパフスリーブで、ベラの非現実的な存在感や個性を際立たせている。
今年のアカデミー賞ノミネート作品は、美術賞と衣装デザイン賞の候補が丸かぶりしている。本作以外の候補は、「バービー」「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」「オッペンハイマー」「ナポレオン」。未鑑賞の「オッペンハイマー」を除けば、個人的には本作のセンスが一番好きなので贔屓目で賞レースを見守りたい。
私達自身の暴露本
閲覧注意の凄まじい映像ばかり。生々しい性描写や手術シーン、死体を持て遊んで切り刻み、人間をオモチャにするかのような脳移植、生体実験、去勢手術。そんなえげつない話でも全て我々が知っている、世界の何処かで行われていることばかりではないでしょうか。ペットを大人しくさせるための避妊手術とか、多くの飼い主の皆さんならやっていることですよね? 勿論、私自身も人間です。何一つやってないなどと云えません。何をやったか、恥ずかしくて云えません。
勿論、我々はやってはいても、あえて口に出したりしないし、人前で見せつけるなんて事はしない。それらをまるで内臓から裏返すかのように露呈したのが、この映画なのかと理解しました。なにせ、人間の作った映画だからこそ、人間の知らないことは映像化できないでしょうから。
映画の締めくくりと言えばスタッフロールですが、この映画は黒いバックで出演者や協力者の名前がスクロールするのではなく、様々な壁画?やなにかのカット映像にテロップを貼り付けられたものでした。制作者の意図は知りませんが、この映画の内容は壁画に著されたような史実、実話の物語なのですよ、とでも云い表そうとしているのでしょうか。あくまで、私の想像ですが。
これはちょっと、へんな既成概念というか偏見かもしれませんが、手塚治虫氏の描いた「ブラックジャック」に類似しているようでもありますね。似たような話もありました。確か、あちらは大人の脳を赤ん坊に移植したんだったかな。心は子供で大人の体になってしまう「ビッグ」という映画もありましたが。それでも、この映画のオリジナリティーが損なわれることはないでしょう。独特のテンポ、聞いたことも無いような音色の音楽。モノクロも交えた凄まじい映像感覚だった。
だんだんダンカン・ウェダバーンの情けなさがツボってきた。
この映画には褒めたいことも掘り下げたいことも大好きな場面も戸惑いもあって収集がつかないのだが、マーク・ラファロが演じたダンカン・ウェダバーンのキャラが、思い起こすほどに有害な男性のサンプルとしてみごとすぎた。自分の性的魅力を自尊心に直結させ、しかし思い通りにならないベラに礼儀作法を押し付けようとし、ベラの自由の魂を傷つけられないと知るや船上に半ば拉致し、果てには捨てないでくれと懇願する。ああ、情けなくてみみっちくてうんざりさせて、ほんとときたま、たまに可愛い。ベラがそういう男性のクソっぷりを映すための鏡になりすぎているきらいはあるが、そんな枠には収まらないぞとエマ・ストーンがエマ・ストーン力でガンガン突破してくるので、気がつけばダンカンなみにベラに夢中になっていて、ああ、これはこれでヤバイなと自分を見つめ直すまでがこの映画だという気がする。あと娼館のマダムはジョエル・コーエン版『マクベス』の魔女の人で、いやほんと妖怪か魑魅魍魎ですよ、すごい役者がいるもんです。
「動き」で描かれる主人公の成長
アニメーション的な視点でこの映画を観たくなる。ヨルゴス・ランティモス監督の作品はいつもそういう感じを抱くのだけど、今作は特にそう。エマ・ストーン演じる主人公の「動き」にやっぱり注目して見た。彼女は胎児の脳を成人女性の身体に移植したため、スムーズに歩いたりできないでいる。身体と脳の働きのバランスが悪いためだろう。この「動き」が、成長するにつれてどんどん洗練されていく。本を読み、様々な人々と触れ合うことで脳が身体の成長に追いつくと、彼女の動きはスムーズになっていくわけだが、その運動の違いによって主人公の成長度合いを描き分けるという点、運動の描写をことさらに重視するその姿勢にアニメーション的な感覚を感じる。
人工的かつ幻想的な舞台設定もアニメーションとの親和性は高いだろうが、人物の「動き」をいかに組み立てるかに注目している点がことさらに面白い。
物語も、自分の身体は誰のものか、身体のコントロール権をめぐる物語とフェミニズムを結び付けた話とも言える。身体の自己決定はフェミニズムの重要なテーマであり、それを描くには「運動」による描き分けは有効だということだろう。
原作小説とヨルゴス・ランティモス的幻想風味の親和性に驚喜
ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督が自ら脚本も書いた「ロブスター」と「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」では、リアリスティックなドラマが進行しているかのように見せつつ、神話のようにファンタジックな設定や現象が強烈な味付けとして加わってくるような、ある種の中毒性さえ感じられる独特の作風が“お気に入り”だった。続く「女王陛下のお気に入り」は英国人女性デボラ・デイビスによる初脚本の時代劇がベースになったため幻想風味はなかったものの、この最新作はスコットランド人作家アラスター・グレイの小説の映画化でありながら、ランティモス監督らしい幻想が復活しているのが嬉しい驚きだ。
大勢が指摘するように、顔につぎはぎの傷を持つ天才外科医ゴッドウィンと、脳移植され電気ショックで新たな生命を与えられるベラは、2人ワンセットで「フランケンシュタイン」を思わせる。その作者メアリー・シェリーの伝記映画「メアリーの総て」で描かれていたように、19世紀初頭は女性が小説を発表するのに苦労したことを考えあわせるなら、人造人間キャラが男性から女性に置き換えられた点は、見下され抑圧されてきた女性の復権と解放という歴史的推移にも沿うと感じられる。
それにしても、知能が乳児から賢人へと急速に発達するベラを熱演したエマ・ストーンのインパクトが圧巻だ。ベラの精神的成長と反比例するようにマーク・ラファロ演じる遊び人の弁護士がだんだん情けなくなっていく感じも実にいい。
The Weirdest Film on Sex, Love, and Gender
Poor Things is the gothic sex oddysey of Bella, a reanimated body created by a Promethean morgue doctor. The film is a scattershot homage to Burton, Von Trier, Fincher, and Kubrick. Lanthimos himself may be top auteur status. It takes some patience but the film's dark, hideous world reveals to be tongue-in-cheek charm you will want to stay. The weirdest major production since Clockwork Orange.
この倫理観は受け付けないが…
なかなか興味深い内容。
脳を移植し、再生した女性の冒険なのだが ・・・
もっとドンドンぶち破れぇ~
恋人がいなければ強制的な手術で動物に変えられるという奇妙な近未来を描いた『ロブスター』(2015)、不気味な少年から子殺しを命じられる恐ろしい『聖なる鹿殺し』(2018)で「これは一体何のお話なんだ?」と混乱させられつつも訳の分からぬ魅力に惹きつけられ、ヨルゴス・ランティモスは一気に注目監督になりました。その才能をハリウッドが見逃す筈はなく、恐らくそれまでの何倍もの予算をぶち込んだ豪華絢爛たる『女王陛下のお気に入り』(2019)ではアカデミー賞の多部門でノミネートされるまでになりました。ただ個人的な好みとしては、『女王陛下~』は、「訳分からない成分が足りない」のが不満でした。もっと迷宮に導いてよぉ~。ところが今回は、「豪華絢爛たる訳の分からなさ全開」でヨルゴス節が帰って来ました。待ってましたぁ~!
成人の体に胎児の頭脳を移植された女性が無垢な好奇心のままに世界を旅する物語で、謂わば現代のフランケンシュタインです。もう、オープニング映像から魅力的で、一気にゴシック・ワールドに引き込まれます。モノクロ映像もカラー映像も暴力的とすら思えるほどの美しさです。低い位置からフィッシュアイ・レンズでの移動撮影という僕の大好物の映像も今回はてんこ盛り。そんな世界で、エマ・ストーンが制限なしの弾けっぷりです。スッポンポンだろうとあからさまな性描写だろうとお構いなしに突っ走るのです。スクリーン前の我々を一体どこへ連れて行こうというのだろうとワクワクします。
ただ、常識に縛られぬ彼女の行動には伝統的な女性性の打破というテーマもあるのでしょうが、そういう観点で見ると舞台がパリに移ってからの展開にはちょっと小さくまとめてしまったのではと残念な思いも。もっと外に向かってドンドンぶち破って欲しかったです。
原作の最後の数十ページをどう表現するか興味があったが、その部分が全...
人間とは…
狂気的で残酷、でも恐ろしいほど美しい
自由と束縛の欲望、我々の本能、人間の残酷さ。
それら全てが物語で溢れる、まるで絵画のようなエネルギーとパワーを感じました。
美しさの中にあるメッセージをこんなにも直接的に感じたのは初めてです。
私たちの潜在的な残酷さは、どのように現れるかが違うだけだと分かりました。
都合の良いように物事を進めるために嘘をつく、新しい物や価値観を与え魂を奪う、美への執着から若い女性を傷つける、人を脅し服従させる。
そんな汚くて醜いものを心の奥底にかかえている。目を背けたくなるけど、必ずあるものだと気付かされました。でもその分、美しさも溢れている。
作品内の性や命に対しての直接的な表現が、より力強いメッセージとなり、私の魂をえぐり、くすぶりました。圧巻です。
頭脳は子供、身体はオトナ
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