劇場公開日 2023年8月4日

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「セーフティネットとしての軍隊」インスペクション ここで生きる 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5セーフティネットとしての軍隊

2023年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アメリカにとって軍隊とはどういう場所なのかがよくわかる作品だ。一言でいえば、軍隊は社会のセーフティネットになっていて、マイノリティや貧困に苦しむ人が生活や人生の糧を求めてやってくる。本作は監督自身の実体験をもとにしている。主人公である黒人のゲイの青年は、母親に見捨てられ10年のホームレス生活の後、海兵隊に入隊。当時の米軍は同性愛者であることを公言してはいけないというルールがあったから、主人公は自分を隠して生きねばならない。「こんな自分でも軍隊で死ねば英雄になれる」という動機で入った彼は、そこで様々なマイノリティと出会う。実社会以上にひどい差別も経験しながらも、仲間と絆を育んでいく様子が描かれる。非常にアンビバレントな体験だろう。酷い差別をしてくる連中とも苦楽をともにし、何らかの弱さを抱えていることに気づくと、絆は生まれる。分断社会を乗り越えるための、非常に貴重な実例を示した作品だと思う。
性的マイノリティはしばしば、シスジェンダーよりも貧困に陥りやすい。軍隊は差別的であるにもかかわらず、そうした人々のセーフティネットとして機能していたという矛盾は、社会の理不尽から生じていることもよくわかる作品だった。

杉本穂高