「ゲイを否定的に受け取られかねない要素を敢えて入れた誠実さ」インスペクション ここで生きる 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ゲイを否定的に受け取られかねない要素を敢えて入れた誠実さ
本作については当サイトの新作映画評論のコーナーに寄稿したので、ここでは補足的なことを書いておきたい。「インスペクション」で長編監督デビューを果たしたエレガンス・ブラットンは、自らがゲイであること、同性の配偶者がいることを公言している。自身の海兵隊訓練期間の体験や母親との関係に基づくヒューマンドラマであり、差別やいじめ、しごきに屈することなくアイデンティティーを貫き、周囲の考え方を変えていく様子が描かれる。感動的であり、啓発効果もあるだろう。
だが、ブラットン監督が自ら手がけた脚本は、決して自画自賛や美談の類ではない。驚かされたのは、大半の教官や同期生が同性愛者を嫌悪する中、例外的に優しく接してくれたロザレス教官とのエピソードだ。フレンチがロザレスに対して抱いた好意は、性的な妄想や淫夢に発展。彼が妻帯者だと知りながら、ついには思い切った行動に出ようとする。
こうした“赤裸々な告白”ともとれるエピソードは、「同性愛者は同じ性的指向の相手を恋愛対象にするもの」という一般的な認識から外れ、観る人によっては否定的な感想を抱くかもしれない。それでも本作は敢えて、主人公を100%善良で優等生のゲイとして描くのではなく、理性より欲望に負けそうになる弱い部分も持った生身の人間として描写している。そこにブラットン監督の誠実さと勇気を感じる。
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