「【”俺たちは塵より小さい。けれど、不幸は永遠には続かない。”貧富の差が顕著になったコロナ禍の香港で支え合い生きる善良なる心を持つ清掃員の男とシングルマザーの関係性の変遷を優しき視点で描いた作品。】」星くずの片隅で NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”俺たちは塵より小さい。けれど、不幸は永遠には続かない。”貧富の差が顕著になったコロナ禍の香港で支え合い生きる善良なる心を持つ清掃員の男とシングルマザーの関係性の変遷を優しき視点で描いた作品。】
■2020年、コロナ禍で静まり返った香港。
清掃会社”ピーターパンクリーニング”を営むザク(ルイス・チョン)は消毒作業に追われる日々を送っていた。
ある日、若いシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)が職を求めてやって来る。
幼き娘ジューのために慣れない仕事を始めるキャンディだったが、富裕層の客の家でマスクを盗んでしまい、一度は馘首されるが、貧しさ故にまともに暮らせないキャンディを見るに見かねてもう一度チャンスを与える。
キャンディも心を入れ替え真面目に仕事に打ち込むが、ジューが溢してしまった洗剤を補填するため、ザクに内緒で洗剤を薄めて使ってしまう。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作では、”ピーターパンクリーニング”に清掃を頼む富裕層は一切出て来ないが、ザクとキャンディが清掃する部屋を見れば、富裕層の家だと直ぐに分かる。
そして、頻繁に出て来る”欧米への移住”と言う言葉も、香港の貧富の差を示している。
・ザクは、老いた母の面倒を見ながら忙しくも真面目に清掃業務をする日々を送っている。そんな彼が、幼き娘ジューを育てるキャンディを見る眼が変わるシーン。
”何で、シングルマザーになったんだ?妊娠したら彼が逃げちゃって。家にもいられなくって。けれど、ジューを産んで良かったと思ってる。”
ー この辺りから、ザクは心根の優しいキャンディを気遣うようになるのである。-
・特殊清掃のシーンも印象的である。
ー キャンディが呟く”何で、生きて居るんだろう・・。”と言う言葉。孤独死は世界共通なのかな。切ない。だが、そんなキャンディをザクは焼き鳥屋に誘って元気づけるのである。
だが、ザクの母親も部屋で事切れている・・。-
・けれども、キャンディがザクに内緒で洗剤を薄めて使ってしまった事から、ザクは起訴され、会社は倒産。
ザクは経理作業をしていたキャンディを”友達だ。”と小さな会社の部屋から追い出し、一人で罪を被るのである。
ー そして、ザクはバンを売りディーゼル車廃棄補助金と併せ、罰金を払う。彼はキャンディの働くアダルトビデオ屋に行き、そこにジューが居る事に気付き、キャンディを”何で、こんなところに連れて来るんだ!”と一喝し、誕生日だというジューに御馳走をしてあげるのである。
そして、ジューに”お母さんと一緒に開けるんだよ。”と言いながら渡した茶封筒。
そんな、ザクにジューは抱き付くのである。
このシーンを見ると、ザクは実はキャンディとジューを支えつつ、彼も二人の存在に支えられている事が分かるのである。-
■茶封筒の中には、おそらく罰金を払ったあとのザクのほぼ全財産と思われる大金と、”これが精一杯だ。ジューをキチンとした学校に入れてくれ。”と言うメモが入っている。
その後、ザクとキャンディは出会い、キャンディはザクに抱き付くのである。
<今作は、フライヤーによると、ラム・サム監督の単独デビュー作だそうである。人間の善性をベースにしたストーリーテリングの上手さが際立つ作品である。
そして、孤独な心を抱えつつ、支え合う若き男女の姿を優しき視点で描いたヒューマンドラマの逸品でもある。>