劇場公開日 2023年7月14日

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「コロナ禍の街の風景」星くずの片隅で TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5コロナ禍の街の風景

2023年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

個人的に(台湾を含む)中華圏の映画は比較的観られていない私。日本から距離は遠くないのに、政治的イデオロギーの違う中国に対して「遠い国」という印象をもっていることは否めないものの、中国映画にみる市井の人々に感じる印象から、それが単なる思い込みだったと気づかされることが多くあります。
この映画の舞台は香港ですが、序盤のやり取りの中で「やつは今中国に行っている」という字幕に、香港人からしたら未だに「中国は中国、香港は香港」なのかもしれないと思ったり(まぁ、字幕をそのまま信じればですが)、或いは、この物語は2020年のコロナ禍なのですが「葬式が多すぎて」と、やはりコロナでの死者が少なくなかったのかと臭わせるようなセリフに、当局の検閲もあるだろうにと心配になったり、冒頭からなかなかの味わい深さを感じさせてくれます。
思い起こせば、日本でも21年頃の作品の多くに「コロナ禍」の閑散とした街の風景を観せるものを多く見かけましたが、今、あの頃の街の風景を観ると、最近の東京と比べ(御幣がある言い方になりますが)少し懐かしさを感じます。何なら、この物語の主人公であるザク、キャンディのように「その日暮らしすらままならない状況」で暮らしていた人にとっては、あの風景が「恐怖や不安」を掻き立てるPTSDの心配すら考えるほど、今やコロナ禍の象徴とも言える「近過去に世界中の皆が観た風景」になりつつあります。
当然、そんな雰囲気で語られる物語ですから、思い通りにいかない悪循環な展開に、観ていて辛いものがあります。にも拘わらず、当人であるザクとキャンディ、そしてジューやザクの母親の「それでも生きていく」様子、また辛さの中でも冗談を言ったり、励まし合って生きている彼らに心を動かされるのです。
公開週のサービスデイ19時10分の回、シャンテの客入りは芳しくない感じでした。確かに「映画館でなければ」という作品性ではありませんが、こういう映画を観終わって一人歩く帰り道は悪いものじゃないなんて思ったりもする(勿論、二人でも)、しみじみと染み入る良作だと思います。興味を持ったあなた、騙されたと思って如何ですか?

TWDera