「何やっとんじゃい!」湖の女たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
何やっとんじゃい!
大森立嗣監督作は個人的に好きなものが多いが、合わないものはとことん合わない。
その最たるが『ゲルマニウムの夜』なのだが、それまでとは言わないが、本作もちとこちら寄り…。
『光』の系統に近いと感じた。即ち、話は面白味ありそうなのに、結局何を言いたかったのかいまいちよく分からず…。
湖畔の介護施設で、100歳の老人が死亡。故意に人工呼吸器を外された模様で、殺人として若い刑事の濱中と先輩刑事の伊佐美は職員たちに過剰なまでの取り調べを行う。そんな中濱中は、一人の介護士・佳代に執着を…。
濱中は取り調べの時から佳代に異様な視線を。
佳代の運転する車が濱中の車にぶつかったのも引き金になったのか、威圧的な態度を取るように。いや、自分の支配下に置く。
濱中は既婚者で、子供も産まれたばかり。その時点でアウト。
仕事では先輩の伊佐美にいびられている。いやもう、パワハラ。
その鬱憤が溜まっているのは見てるこちらもハラハラと伝わってくる。
普段は抑圧されている。それを立場を利用して、誰かに。
ある夜呼び出し、車のライトに照らされる佳代を見ながら濱中はオ○ニーを…。オ○ニーする佳代を撮り、全裸にして謝らせ…。
佳代も表向きは拒絶するも、内心は弄ばれたいような気質も…。
歪んだ感情。インモラルな関係。
イケメン代表のイメージをかなぐり捨てた福士蒼汰、際どい描写に挑んだ松本まりかの熱演は天晴れ。
だけど、何やっとんじゃい!
この二人の関係が事件に関与する事はナシ。
捜査は一人の介護士・松本に目星を付けるが、的外れ。耐えきれなくなった松本は自殺しようとするが、一命を取り留めるも、その後もマークされる。財前直見が熱演。
何故こんな違法捜査するのか。管轄署はその昔、ある大事件を権力の前に解決出来なかった。
その無念。回想で泣き叫ぶ伊佐美。このシーンの浅野忠信の演技は本作随一!
以来、伊佐美も署も変わってしまった。
奇しくも今回の事件はかつての事件と関与。
若い記者の由季が追う。署が隠蔽してきた事、国が歴史の闇に葬った衝撃の事実が…。
かつて署が解決出来なかった事件というのが、50人の命が奪われた薬害事件。
ある大物政治家の圧力。その大物政治家は、戦争時代に日本が行った非人道的な人体実験に関係。
さらにその中心人物が、不審死を遂げた100歳の老人。
この繋がり、事実。何かある。
この路線で話を進めていったら絶対面白くなったのに、相変わらず濱中と佳代はイ・ケ・ナ・イ関係。
もう何なの!?
やっと面白味が出てきたと思ったら…。
この衝撃の事実より、作品は濱中と佳代の怪しい関係の方に主軸を起きたいようだ。
佳代が嘘か真か自分が殺したと言っても、由季が独自の調査で疑わしい人物を見つけても(バードウォッチング中のまさかの女子中学生で、あるシーンで不敵な笑みを)、それ以上の進展ナシ。
行き過ぎた取り調べは問題視され、濱中と伊佐美は失職。佳代は…。最後結局犯人が分からぬままでも、作品はお構いナシ。
事件の解決や真相、犯人より、このヘンなムード優先のようで。
で、結局何だったの…?
何を言いたかったの…?
独特の作家性を持つのはいいかもしれないけど、もうちょっと見る側の事を思おうよ。