駒田蒸留所へようこそのレビュー・感想・評価
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働く大人の等身大のドラマ
とても上質な人間ドラマなのでもっと話題になってほしいなと本当に思ってる。ウイスキー蒸留所を持つ会社を経営している一家の長女が、若くして社長となって、会社を立て直す。押し付けではなく自らの選択として会社を守ることを選択した彼女に、ダメなウェブライターが感化されていく。震災で会社の経営が行き詰り父が他界し、早くから自分の道を決めた女性社長と、自分のやりたいことがわからないライターの対比で、「仕事ってなんだろう」というだれでも直面する問題を鮮やかに描いた。これまでも働く人を題材に多くのテレビアニメを手掛けてきたPAワークスならではの作品なのは間違いなく、こういう等身大の大人の悩みをしっかり描けるアニメ作品があるということは、素晴らしいことだと思う。
おそらく、この作品はドラマの「重版出来」とか、「獣になれない私たち」とか現役で働く女性たちへの共感を狙える内容だと思うけど、そこまで届いていないかもしれない。ちょっともったいない。
ウイスキー造りの話を、未成年にも観てほしいという高難度の企画
アニメ制作会社P.A.WORKSが手がける「お仕事シリーズ」の第5弾だそう。過去4作ではそれぞれ旅館、アニメーション制作、町興し、水族館という職場や業種で働くことを通じて成長していく女性たちの物語を描いてきた。一方で今作は、駒田蒸留所の若き女性社長・琉生が幻のウイスキーを復活させるべく奮闘する姿を、取材する新米編集者・光太郎の視点から語りつつ、当初やる気のなかった光太郎が仕事の責任や面白さに気づいて成長する過程も描いていく。光太郎がいわば映画の案内役となり、蒸留所での製造工程や琉生と従業員の働きぶりを見聞きすることで、お酒に詳しくない観客にもウイスキー造りの概要を伝える格好だ。
私自身ウイスキー好きで、ニッカの余市蒸留所を訪問したこともある(大人気の蒸留所見学はあいにく予約が取れず、ミュージアム入場と試飲どまりだった)が、アニメでも蒸留所設備の質感や雰囲気がリアルに再現され、仕込みから蒸留、長期の樽熟成といった工程も分かりやすく伝えられていると感じた。
キャラクター造形に関して、記者としてのキャリアが皆無に等しい20代半ばの光太郎が、取材対象の蒸留所社長の琉生に対し、歳が近いからか女性だからなのか、タメ口まじりで話すのには何度もいらいらさせられた。記者として社会人として未熟な面を強調することを意図した脚本だとは思うが、それ以前に人として他者との接し方に問題があるように感じられ、彼の成長にいまひとつ共感できないままだった。
観ながら気になっていたことがもう一つ。ウイスキー造りの話であるのに、肝心のウイスキーの魅力、琥珀色に透き通る見た目の美しさであるとか、うっとりするような芳醇な香り、味わった時の感覚的な喜びや高揚感のようなものが、ごくごく控えめにしか表現されていないことだ。味と体験が素晴らしいからこそファンが増えて経営が成り立ち、またそうした味と体験を提供することこそがウイスキー造りに携わる人々のやりがいや誇りであるはずなのだが。想像するに、観客の年齢を問わないG区分で劇場公開するため、酒の美味しさや飲酒の愉しさを描写するという部分で妥協せざるを得なかったのではないか。「酒そのものや飲酒する行為を魅力的に描いたせいで未成年の飲酒を誘発した」などと批判されるのを未然に防ぐため、描写を控える判断になったのでは。もしそうした自主規制がなかったなら、ウイスキーに興味がなかった光太郎が次第に味がわかるようになり、終盤で完成する銘柄を堪能して感動するという展開になったのでは、と酒好きの私は妄想してしまう。
ありきたりな話な上にキャラ造形が薄っぺらい
ウイスキー蒸留所という題材であることを除くと、非常に単純な企業復活ものです。そうなるとドラマとか心情、何より仕事をやり遂げるとかテーマが重要になると思うのですが、それが語るべきものがないくらい平凡な気がしました。兄妹間の企業の存続と買収問題ってあまりにもありきたりです。さらに、キャラ造形が薄っぺらい上に、事件がとってつけたような内容です。
特に主人公がクズすぎというか、舞台を回すためにキャラを作りすぎな気もします。今時の若い人…というイメージなんでしょうか。
劇場で入り込んで見たら印象も違うのかもしれませんが、VODで見ると凡作に感じました。いわゆるいい話だし作画等は無難なので、酷評する楽しみすらありません。
作品にはなっているので点は2点つけますが、印象はもっと悪いです。
お仕事映画としての完成度は低くない。
クラフトウィスキー造りを手掛けるウィスキー業界の一端を描いた「お仕事」映画としては、決して劣らない一本でした。
とくに、蒸留所の「命」とも言うべきポットスチルが、そのシズル感たっぷりに描かれていたことが、忘れられません。
アニメ作品であってみれば…の描写力とも言うべきでしょう。
佳作としての評価にも、十二分な一本だったと思います。評論子は。
(追記)
「超」の字がつく下戸の評論子には、とんと無縁の世界ですが(職場に新規採用になった頃、直属の上司から「そうか。それじゃあ君は、人生の真実をひとつ知らないんだね。」と評されてしまいました・涙)。
しかし、嗜(たしな)む向きには、鑑賞中にも舌の上に感覚が蘇(よみがえ)るなど、なかなか興味深い一本だったのではないでしょうか。
(追記)
某酒造メーカーの「スーパードライ」などビールと、「新顔」のワインに席巻されていたかのような日本のアルコール市場ですけれども。
ここへ来て、日本酒も復活と聞きますし、評論子が住む都道府県でも、厚岸(あっけし)という町で、本場のスコットランドに似た気候を活かしてウイスキーの醸造が始まり、つい近年に初出荷を果たしたと承知しています。
また、ワイン醸造も早くから取り組まれ、池田町というところには、ヨーロッパのお城のような「ぶどう・ぶどう酒研究所=愛称:ワイン城」があり、良質でも、量的に商業ベースには乗らず、出荷ができないことから町民還元用とされているワインを、観光客も楽しめるとも聞き及びます。
(日本酒にも、増毛(ましけ)町、根室(ねむろ)市など、古くからの良質な蔵元もありますが…。本場の新潟県には、なかなか太刀打ちできないので…。汗)
(追記)
「脇道」を抜け出して、お話が作品に戻りますけれども。
キャラクターのデザインが、どれも美男美女で、それはそれで良いのですけれども。
しかし、どの人物もあまりにも少女漫画から切り取って来たようなデザインで、いささか鼻にはついてしまいました。評論子には。
もうちょっと写実的なキャラクターであれば、もっとストーリーに没入できたようにも、思います。
(もっとも、映画作品としての全体的な仕上がり具合から言えば、その点は、そうそう大きな減点要素ではなかったとは思います。)
どうありたいかさえ見えていれば、どこから始めても辿り着ける
どこか他人事な様子の高橋が、周りの物事に興味関心が湧きづらい私と重なって、
もしかしたら勿体ない生き方をしてるんじゃないかとハッとさせられる
いろいろな人の想いが交錯しながら行き着いたクライマックスに心温まりました
いいお仕事映画だった
期待値はほどほどに観たが、とても良かった。
若くして家業の蒸留所を継いた主人公が幻のウイスキー「独楽」の復活を目指す話に、取材担当記者の成長や家族の絆の話を上手く絡め、90分の尺にまとめ上げているのはお見事。
P.A.WORKSの過去のお仕事シリーズ同様、実写向けの題材をあえてアニメでやるという気概を感じた。
ウィスキーの「KOMA」の復活を実現させるために主人公をはじめ蒸留...
ウィスキーの「KOMA」の復活を実現させるために主人公をはじめ蒸留所の人たちや家族の奮闘が描かれた物語でした。朝ドラの「舞い上がれ」を思い出しました。
取材記者の光太郎の成長物語でもあり面白かったです。
地味アニメ映画最高!!
面白かった。
話は『王道』。ですが王道をしっかりと突いてこれる丁寧な作り。
『王道』なので下手な脚本家が書くと陳腐になりそうですが、木澤行人、中本宗応、流石です。
ウイスキー造りを違和感なくストーリーに入れてくるあたり、うまさと真摯さを感じました。
「画が超きれい」みたい映画ではありませんが、テレビでなく映画として作られていて、しっかりと描かれていました。背景の丁度いい感じの質感。抜くところは上手に抜いて
『ここ!』という所のキメ画をシッカリ。雲の表現が良かった。人物の細かい所作も描かれていて、手を抜いてない質の高さを感じました。
そして、その質を担保する為、アクターも上質で、それらが「この映画はこのレベルの映画ですよ」と教えてくれている気がしました。
『ツッコミ』入れたくなる所もありはしましたが、「話を進めて行くためなので仕方か~」とも思えましたし、それも上手くフォローしていたりして、それはそこまで気にはなりませんでした。
ですが一番ツッコミを入れたくなったのは、最初、光太郎がいい加減過ぎて「こんなやつ採る?できる編集長がこんなやつに仕事まかせる?」と思いました。そこも小野賢章と細谷佳正のうまさで耐えた気がします。下手なアクターがやってたらきっと駄目だったと思います。それでも、もうちょっと納得いく説明が欲しかったです。
丁寧な作りで役者も大げさな演技せず、演出も自然な感じに努めようとしていて、
少々クサイところも自然に入っていけて、途中から何回も色々とウルウル来ました。
P.A.WORKSの仕事系は面白く、好きなのもありますが、映画館で観て良かったです。
この映画自体の『まとまり』が良く見応えがあり、映画館で観る映画だと思います。
特に映画館で観て良かったなと思えた所は『音』です。『音』良かったです。
この映画はエンドロールまで見て欲しいです。で、早見沙織は才女で歌も上手い。
あと禁酒中の人は要注意です。ウィスキーが飲みたくなります。
そして飲む時は、お酒に感謝して飲まないといけないな、思わせてくれる、そんな映画でした。
気持ちよく見れる映画
見てて気持ちいいお仕事映画!
蒸留所の勉強にもなるし、展開も素直だし、絵も綺麗。
ちょっと主人公の最初の失礼さと心変わりだけは唐突すぎる気はしたけど、まあ下手に引っ張られるよりはさっさと改心してくれてよい。
後継者がいなくてなくなっていく伝統がこうやって沢山あるんだろうな。。そして昔の味を再現しようとして皆が一丸となるの、素敵。
まさにクラフトウィスキーのよう。派手さはないけど丁寧な仕事がなされた一本
予告編で「こんな内容かな?」と予想していたのだが、そこに一捻り加えた映画の始まり方が心地良かった
主人公はあらすじにも書いた通り三代目社長の琉生なのだが、作品は、彼女の協力を得ながらウィスキーの連載記事を書く新人ライター高橋の目線から始まる
第二の主人公高橋。ウィスキーの知識が皆無なのもさることながら、仕事自体に漠然とした疑問を抱えながら何となく毎日を過ごす何とも見ていて歯がゆいキャラクターなのが良いね〜
お仕事ものに初心者を出すのは定番だけど、そこに外部の意欲なし人間を配置したのが上手い!
テーマの語らせ方も違和感ないし、終盤の大きな山場の伏線を何気なく張っていたことにも丁寧な仕事を感じた
公開中に気が早いけど呑みながらのんびり見るのにもオススメしたい良作です
「やりたい事」と「やりたくもない事」、仕事とは…。
P.A.WORKSの通称「働く女の子シリーズ」が大好きです。
女の子たちが可愛く魅力的なこれまでのTVシリーズとは打って変わって、今回のテーマは少し大人で渋いお酒ウイスキーを作る蒸留所が舞台。
「働く女の子」から「働く全ての人」へ脱皮した事を伺わせてくれるWORKSの社名にも通じる集大成とも言える作品で、上映が終わると拍手が起こるくらいの傑作です。
駒田蒸留所の3代目社長は先代の娘、琉生(るい)。
若きブレンダーとして活躍をし、ウイスキー業界で注目の存在。
上司からの命令で急遽、彼女を取材する事になったWebニュースの記者(入社6ヶ月)の高橋光太郎は25歳で5社目の転職組。
光太郎は記者の仕事にも興味を持てず、琉生がインタビューして光太郎が記事にする企画が立ち上がり、二人は一緒に仕事をする事に。
しかし光太郎は下調べはしない、取材先の名前は間違えるし、興味もなく失礼な態度を取るなどのあり得ないミスを連発。
完全にお荷物扱いの光太郎は自分にとっての「やりたい事」は何処にあるのかと、友人や琉生たちを羨み、身が入らない状態のまま駒田蒸留所の仕事を体験する企画で頻繁に出入りをする事に。
ぶつかり合ったり、喧嘩をしたり…気がつくと光太郎は飲みの場でウイスキーを頼んで飲んでみるように。
琉生と駒田蒸留所で働く人たちの悲願と夢は駒田蒸留所で創業者の祖父と先代の父が作った「KONA」という失われた幻のウイスキーを復活させる事。当時未成年で香りしか知らない琉生が記憶の香りを頼りに原酒さえ失われたウイスキーにかける作る人、支える人、お酒を楽しむ人たちそれぞれの人生のドラマがウイスキー造りと同じく時間をかけて蒸留して熟成されていくのと重なるように垣間見れます。
ウイスキーについて殆ど何も知らない多くの人=光太郎に近い状態から入っていけるのでウイスキーに興味がない人でも光太郎のように「やりたい事」が見つからない進路に悩む学生、「やりたくない事」を任され仕事に悩む働く全ての人に見て欲しい2023年を代表する映画作品だと思います。
本気で働いた事のある人、仕事に限らず情熱を持って何かに取り組んだ事のある人にとってきっと涙なしには観れないと思います。
声優陣も魅力的で、本当に多くの人に支えられて完成するアニメーションや映画のエンドロールはそれを改めて感じられ、仕事とは一人ではできないものだと改めて感じられました。
長く続ける大切さがわかるね
日本産ウィスキーが外国で人気が出て店頭に列ばないウィスキーもあるのをご存じでしょうか。
量産すれば解決するモノだと思って居た自分がこの映画を観て鱗が取れた思いになりました。あの美味しいウィスキーを飲んだ時と同じ気分になれる映画でした。
いい仕事がしたくなる
向かう先がはっきりしていれば
どんな方法でもたどり着ける
たとえ失敗しても遠回りでも!
ザ・お仕事ムービー
ウイスキーづくりの話で
もっと説明っぽいかと思ったけど
全然そんなこともなく
あっさりと観れた
仕事に目的を持って
一生懸命やれることは素晴らしい。
熱い仕事がしたいと思わせてくれる作品でした。
真の主役は光太郎! 「天職」と「やりがい」の関係にせまるP.A.お仕事アニメ最新作。
封切り前は、こんな地味なキャラデザと、こんな地味な題材で大丈夫かしらんと、他人事ながら大いに心配したものだが、封切り2週間の今日の時点でもそこそこ客は入っていたし、ここの星評価もそう悪くなくて良かった。
地味だけど、堅実で、真摯で、一生懸命作ってあって。
いかにもP.A.WORKSらしいアニメでした。
P.A.WORKSのアニメを観始めたのは『true tears』(2008 )からだから、気づくとずいぶんと長い付き合いになる。15年というのは結構な期間だが、当時『tt』にどハマりした同い年の会社の同僚O君(キモオタ)は、いまでも毎年城端まで深夜バスで赴いての聖地巡礼とイベント参加に余念がない。それだけの吸引力のある作品だった。
それから15年のあいだ、P.A.WORKSは、愚直に作品を発表しつづけてきた。
快作もあれば、それほどでもない作品もあった。
ただ、一貫して「オリジナル」と「地方創生」へのこだわりは喪われることがなかった。
その二つのベクトルの合わさったさきに、いわゆるP.A.WORKSお得意の「お仕事アニメ」というものがあったのだと思う。
とはいえ、これまでのP.A.WORKSの「お仕事アニメ」は、ある程度の「萌え」だったり「美少女」だったり「ドタバタ」だったり「題材自体がアニメ」だったりといった、いかにもアニメ的・オタク的な要素を加味することで、なんとか成立していた部分もあった気がする。
今回のように、地味オブ地味なキャラ&設定で、果たしてアニメとして本当に「もつ」のかどうか、しょうじき半信半疑の部分があったのだが……。
いや、『夏子の酒』とか『マッサン』とかの有名作があることを考えると、酒造りは題材としては地味というよりは、むしろキャッチーな部類にはいるのかも?
自分は下戸なので、酒造りがテーマとして「ひき」があるのかどうか、正直よくわかりませんで……。
まあ杞憂に過ぎなかったのなら、よかったです(笑)。
― ― ―
企業ものとしては、本当に正攻法の内容で、あまりケチをつけるところもない代わりに、とりたてて「ここが凄い」と騒ぐような作品でもない。
強いて言えば、単純な「蒸留所のなかの苦労とサクセスの物語」とせず、敢えて「蒸留所の若社長と新米ネット記者」のダブル主演とすることで、「外からの視点」&「東京との二元中継」を成立させた点が作劇のキモといえるだろうか。
この作品では、ヒロイン琉生の姿は常に第三者的な「外からの視点」を介してしか描かれない。だから、琉生の内面については最後まで謎の部分が残るし、美大でなにがあったのか、なんらかの挫折を経験したのかなど、寸止めで語られないゆえに判然としない過去の要素も結構多い。
すなわち、観客が彼女に全面的に感情移入して自己同一化するような作りにはなっていない代わりに、その分、キャラクターにはある種の奥行きと触知しきれない深みが残るし、観客はより客観的に彼女のチャレンジを判断し見守ることができる。
出来の悪いネット記者との対比で、彼女のぐう聖ぶりを強調することもできるし、東京との対比で「地方で地場の仕事を貫徹することの光と影」を浮き彫りにすることもできる。
さらには、琉生のチャレンジと同じくらいの重みで新米ネット記者の成長を描くことで、物語としても複層性を持たせることができる。
結果的に、主人公を二人に設定したのは、大正解だったと思う。
ただ、琉生のほうは、どちらかというと、一生懸命酒造業界をリサーチした結果として、こんなヒロインがいてくれたらいいなと、「頭で作り上げた」ようなキャラである点は否めないだろう。
一方で、新米記者の光太郎のほうは、アニメ制作の現場で実地でうんざりするくらい見てきたような類型的新人であるに違いなく、ありようがおそろしく生々しい。実は琉生よりよほどキャラにリアリティがあるし、こちらをイラつかせる度合いもすこぶる高い(笑)。
僕にとっても、琉生のやっている蒸留所に比べれば、光太郎の職場は格段に自分の今働いている業態に近く、実際こういう手合いにはうんざりするくらい出逢ってきた。
ただし一言いっておくと、この手の「気の乗らない」仕事の現場で「顧客に迷惑をかける」ヤツというのは、一事が万事その調子で、実際にはほぼ間違いなく「伸びない」し、根本的に「向いていない」し、たいがいは早い段階で挫折して辞めてしまうものである。
その意味で光太郎は、琉生以上に「空想的なキャラ」と言ってもいいのかもしれない。
でも、作っている監督は僕なんかの百倍「こういうヤツ」のなかに「可能性」を見出していて、ちょっとやそっとのことではへこたれない「強さ」と「粘り腰」を期待しているんだろうな、というのはビンビン伝わってきた。
と思いながら、パンフを読んでいたら、面白いことが書いてあった。
シナリオ担当の木澤行人&中本宗応がパンフのインタビューで、
〈我々にお声がけいただいたときから、吉原(正行)監督には明確なコンセプトがあったんですよ。監督自身が若い方を指導していく中で、「この人には素質があるから、もうちょっと頑張ればいいところまで行けそうだ」と感じていても、途中で辞めてしまう人がいる。監督はそれをとても残念に思っていらして、「そんな若者たちに向けたエールとなる作品にしたい」と何度もおっしゃっていました。〉
と述べているのだ。
なるほどなあ、と思った。
やっぱり、この映画の真の主役は「琉生じゃなくて光太郎」だったんだな、と。
監督が真に気にかけていたのは、「光太郎みたいなダメな新人」だったんだな、と。
なんにせよ、「お仕事アニメ」としての本作は、人が一生をかけるべき仕事とはどうしたら出逢えるのか、本当にやりがいのある仕事とは何なのか、といった問いを中心に据えて作られている。
父親の突然の死という現実を受けとめて、絵を描く道を諦めて、やむを得ず「家族の酒」のために蒸留所を継ぐ決意をした琉生(もとからいざとなれば継ぐ家の稼業があるパターン)。
大学を出てからも職場を転々とし、鬱屈したものを抱えて「自分探し」をしながら、ようやく「記者」という本気でやってみるとのめりこめる仕事に出逢えた光太郎(何が自分にできるかを自分で探さないといけないパターン)。
もともとは放送作家を目指していたが、ライター仕事も引き受けているうちに、まわりに感謝されることが増えて、いつしかこちらが本業になっていたというヤスさん(周囲の評価がその人の男子一生の仕事を見つけてくれるパターン)。
それぞれが全身全霊でぶつかれる仕事に出逢うまでの道筋は異なるが、重要なのは「それは必ずしも自らの力で選び取ったものである必要はない」ということ。
最近は、個人としてできることの選択肢と自由度が増したぶん、誰もが「自分探し」に余念がないが、パンフで小野賢章もいっているとおり「行き着いた先が声優だった」ということだってある。「天職」は必ずしも自分でつかみ取らなければならないものではない。
成り行きだったり、やむを得ない事情だったり、他者評価の結果だったりがきっかけでも、「天職」に巡り合うことは可能だ。それを自ら選択しなかったからといって卑下することはない。重要なのは、環境論的に与えられた仕事のなかで「やりがい」を見つけ、それを「天職」としてゆく過程なのである。
― ― ―
最初に「ケチをつけるところが少ない」話だとは書いたが、いくつかひっかかることはある。
いちばん気になるのは、お兄ちゃんがノートを持ってきてくれるタイミングで、父親が死ぬ前にノートを受け取っておいて、妹が画業を諦めてまで会社を継いでいるというのに、いかに喧嘩別れしていたとはいえ、よく8年も放っておいたな、とは思う。
まして、妹が喪われた「独楽」を復活させようと孤軍奮闘していることを知ってからでさえ、ノートを渡してくれるまでには結構なインターバルがある。
最後に「家族のいい話」みたいにまとめられても、レシピ長年隠し持って、妹のチャレンジをスルーしてたようなやつを簡単に許しちゃいけないと思うんだよね。
作劇上は、お兄ちゃんがレシピもってきた瞬間に完成したらさすがにまずいから、何か一味足りない、なんだろう、なにか書いてあるけど読めない、お母さんなら読めるかな?といった「付け加え」をして誤魔化しているが、本来的にはお兄ちゃんがすぐに協力してくれてたら、やらないでよかった苦労が山ほどあるはずだ。
他にも、いかに飛び出してたからといって、親が死んだのを知ったなら後日、仏前に来て焼香くらいしろよと思うし、そもそもウイスキー蒸留をやめることに反発して家を飛び出したのに、妹がウイスキーづくりに再び取り組みだしたタイミングで、ひたすら「買収工作」にはげむというのもどういう了簡なのか。
結局、必要以上にどろどろさせずに、爽やかな後味で観終われるようにするために、お兄ちゃんのキャラクターを「こじれていただけで実は良い人」に設定にしてあるのだが、本来ならもっとひねくれていて、恨みがましく、妹に嫉妬しているような「嫌なやつ」がやるような粘着質な行動を作中ではとっているので、そこに齟齬が生じているということなのだろう。
そのほかでいうと、以下も気になったが、些細なことかと。
●老朽化した建物で電気がつきづらくなっている状況で漏電の可能性を見逃すのは「仕方ない事故」とはとても言えない。(琉生の管理責任はもっと問われてしかるべき)
●あのテイスティングノートを肌身離さず持ち歩いている設定(そして置き忘れる展開)にはさすがに無理がある気がする。パンフを読むと、脚本陣自身も「地に足のついた物語のなかでここだけ漫画チックなのでおそるおそる提出したら意外にすんなり受け入れられた」とか述懐してたから、作り手側にも十分自覚はあると思うんですが(笑)。
●この作品中では「10年後にようやく飲めるようになる原酒の仕込み」の作業と、「来年にも売り出せる『独楽』のブレンディング」の作業が並行して進んでいて、「短期的スパン」で努力と成功が示されるのは実は後者だけなので、ドラマとしては若干拍子抜けする部分がある(日本酒を仕込んで完成して大万歳みたいな「わかりやすさ」がない)。
まあ、本気でやるなら目の前の成功とは関係なく10年は結果が出るまでやんなさいよという制作陣のメッセージがドラマの組み立てにも出ているんだろうけど。
逆に『SHIROBAKO』とか『サクラクエスト』でもそうだったけど、潔いくらいに恋愛要素を作中からオミットしていたのは、なんかP.A.WORKSらしくて良かった。
それから、なんといっても今回は声優陣の安定感が、作品のクオリティを担保している気がする。
早見沙織、小野賢章、細谷佳正、中村悠一、鈴村健一というのは、それこそこの10年に活躍してきた中堅~ベテランのまさに「上澄み」のようなメンツであって、長年のP.A.WORKSの仕事の中で培ってきた絶対的な信頼をもとに、選んで託した「同志」たちのような存在だと思う。適材適所でみなさん、本当に良い仕事をしていた。
とくに先輩が細谷みたいな声だと、後輩は絶対「育つ」よね。安定感がハンパないから。
あと、さすがにもう井上喜久子はお母さん役なんだねえ……。
― ― ―
個人的にも、今勤めている会社の仕事はある意味斜陽産業で、今年も赤字確定のような状況にあり、昔みたいにうまくいかないことは重々わかっているのだが、これといって改善策を見いだせないといった環境のなか、いろいろと身につまされながら観ました(笑)。
あと、新人育成と継承ってテーマも、やっぱり難しいよね。こちらも日々試行錯誤なのだが、僕もヤスさんみたいな上司になれたらいいな、と。
でもこの5年くらいの新人って、別に誰から怒られたわけでもないし、責められたわけでもないのに、比較的簡単に心を壊して出てこられなくなったり、ほんとに臥せっちゃったりする子が多くて、いろいろ悩ましいところ。俺らの世代よりプライドが高いわりにストレス耐性が低くてもろいから、扱いが本当にむずかしい……。
蒸留所だけでなくキャラ達の実在感が素晴らしい
駒田蒸留所のウィスキーを飲みたくなりました🥃
無駄が無くテンポの良いストーリーで
蒸留所だけじゃなくアニメの人物達も
みんな実在感のある生きたキャラクターになっていて
没入して観てしまいました。
加藤達也さんの控えめな劇伴と
声優陣の実写的な抑えた演技も素晴らしかったです。
一点、欲を言えば家族ドラマだけでなく
ウィスキーを飲んだ事が無い人でも
ロック、ストレート、水割りが美味しそうに見える様な描写があると良かったです。
私はウィスキーの美味しさを知っているので保管出来ましたが
この映画がきっかけでウィスキー好きが増えると嬉しいです。
パンフを購入したので今夜はウィスキーを飲みながら読もうと思います。
ちょっと混乱。
お仕事映画。恋愛は無し。
お仕事映画を多く作っているプロダクションの作品だそうで、納得。
とにかく景色が綺麗だった。
長野の近い山、緑と茶が混ざった夏~秋の。青空に映える。
実写だと光の加減などで寂しさを感じたりするけれどアニメはさわやか綺麗。
原作が『コマの復活を願う会』。
ん?コマって実在したの?と一瞬混乱。
いまだ真偽がふわっとしている。
ただコマ含め劇中のウィスキーを再現しようというプロジェクトがあるということは、元々ないものを作ろう、ということで良いのかな?
『再現』という言葉はあったものをつくる、という意味合いだからまだ混乱。
特筆したいのは早見さん。
柔らかいお声のイメージがある方。
最初R&Bの若手の歌手かと。
歌のテクニック、すごい。
今クールテレビアニメでイメージ通りの柔らかいお声で歌を歌っているけれど、全然違う!
どちらも素敵だけどほんとにイメージが違う。ビックリ。
キャラの声色だけじゃなく、歌声も変えれるとはスゴすぎる。
ほぼ余談になってしまいました。
ウィスキーを飲もう♫
日本は北海道から鹿児島まで、スコットランド、アイルランド、アメリカと世界中の蒸留所を廻っているウィスキーオタクなので公開を楽しみにしていました。
背景の細かさに、さすがP.A.WORKSさんとビックリ。
あの蒸留所この蒸留所が写真かな?と思う程、正確に再現されていて、応接室の小物まで一緒で、ほくそ笑んでしまいました、、
有楽町のあの名店バーの椅子のリレーフも!
そして働いているスタッフさんまでかなり本人に寄せていたので、キャラクターデザインさんも各地の蒸留所へ取材に行ったのかなあと、、
お話の方は、
ウィスキーの熟成と人の成長、
そして、それ一つでは個性があり過ぎて飲みにくい原酒も個性を補いあいブレンドすると素晴らしいハーモニーになるように、
バラバラで皆違う方向を向いてしまった家族が一つの目的に向かって協力していき家族の繋がりを取り戻す
とウィスキーの特性を活かしたドラマ作りで良かったです。
フィニッシュ樽のくだりはジワリときました。
皆さんのレビューを拝見したら、普段ウィスキーをあまり飲まない方や興味が無かった方もウィスキーを飲んでみたくなったという方も多く、嬉しくなりました。
お酒を飲む人口が減りつつある今、少しでもウィスキーに興味を持って貰えると良いなー。
そして劇中に登場するウイスキー「KOMA」を再現するプロジェクトも映画に連動して始まってました。
ご興味ある方は是非検索されてくださいませ♪
とてもPAらしい気持ちのいい作品
こういった自然な「地域の空気感」はAPworksならでは
ウィスキーをめぐる物語としても
登場人物たちのドラマとしても
ウィスキーの製造、開発のトリビアとしても
非常にちょうどいい塩梅で最後までじっくりと楽しむことができた
しかし、全体的に落ち着いた淡々と物語が進むのと
妙に作中の時間の経過がつかみにくいため
「なんだウィスキーって簡単につくれちゃうんじゃん」
みたいな気持ちになりそうになってしまうのが危ない
ネット記事の校正ミスなどの伏線が解りやすすぎる
(その顛末もあっさりしているあたり)のも
少し拍子抜けではあったかなあと
冒頭、「音」でウィスキーを見せてくるのがとてもよく
やる気のない主人公が奮起するきっかけが
皆が皆、「自分のやりたいことを仕事にしている」のではなく
「いろんな縁でかかわった仕事がやりたいことになっていった」
ということを知り触れたこと、というのもよかった
最後までグイグイと引き付けてくれる良作ではある
それだけにもう少し時間の経過を感じさせてほしかったなあと思ってしまう
ウイスキー×家族愛×伝承×造り手達の想い
ウイスキー大好きな25歳なもんで、登場人物が同年代なお仕事映画は刺さりますな。
糸が無ければコマは回らない…
シナリオが美しくて、すっきりとした綺麗な映画でした。
唯一ストレスだったのは、主人公の序盤の腐りっぷりの酷さとあっさりと成長したところくらい?笑
ビンタのシーンは正直スカッとしました。笑
ウイスキー興味ない人もぜひ!!
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