「ソヴェール監督らしい凄みと畏れを併せ持った一作」アスファルト・シティ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ソヴェール監督らしい凄みと畏れを併せ持った一作
ソヴェール監督といえば、燃え盛る炎に飛び込むような題材選びで知られる。例えば内戦の混沌を描いた『ジョニー・マッド・ドッグ』。それに続く刑務所内のムエタイ・ドラマ『暁に祈れ』。いずれも尋常でない方法で臨場感を刻んだ秀作だ。そんな彼が拠点の一つに据えるNYを舞台に描いた新作だからこそ、本作はありきたりな街の神話の域を超え、救急救命士が身をもって体験する壮絶な日常の物語となり得ている。仮に前二作を「怪物」と形容するなら、本作はさながら凄みと畏れを併せ持った「死神」。その上、主演のペンとシェリダンを両輪として、彼らの演技、関係性、化学変化によって状況や心理模様をじっくりと切り開いていく様にも見応えがある。突き詰めるならラストの一文。そこに刻まれた言葉が本作の核心とも呼ぶべき意図を告げる。見終わった側から忘れる消費型の娯楽作でなく、観客が自ずと想いを受け取り、問題意識を育んでいく映画と言えるだろう。
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