劇場公開日 2025年6月27日

「まさに命のやりとりの現場」アスファルト・シティ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5まさに命のやりとりの現場

2025年7月2日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

予告から、救急救命隊員が要救助者の命をめぐる事件に巻き込まれるような話かと思っていたのですが、ちょっと違いました。命は命でも、救命隊員自の命を見つめ直すような物語でした。

ストーリーは、犯罪多発のニューヨークのハーレムで、医学部入学を目ざして勉学に励む傍ら、新人救急救命隊員として働くクロスが、バディのベテラン隊員ラットから厳しい実地指導を受けながらさまざまな救命の現場を目の当たりにして心身ともに疲弊していく中で、ある現場での新生児への対応をめぐって二人の救命に対する姿勢が浮き彫りになっていくというもの。

これが救急救命隊のリアルだと言わんばかりに、観ている者に激しい衝撃を与え、メンタルをこれでもかと抉りにきます。命がけの現場に出向き、献身的に活動しながらも、ほとんど感謝されることもなく、むしろ興奮した患者や周囲の人々から罵声を浴びせられる救命隊員。それでも必死に救命を試みる姿に頭が下がります。

しかし、そんな救命活動さえ、虚しく徒労に終わることも少なくないでしょう。まじめな人ほど、自分の無力さに打ちのめされ、己を責め続けることになるかもしれません。心身ともに疲弊し追い詰められていくさまが、重く苦しくのしかかります。

クロスの部屋に飾られた絵は、それでも人命を救うことをあきらめないという彼の決意や理想を象徴するかのようです。そして、彼の上着の背中に描かれた天使の翼は、両手の動きに合わせて羽ばたいているかのように見え、その時々におけるクロスの心情を物語るようです。

一方で、クロスと親しくなった女性やラットの元妻らの姿を通して、隊員の疲弊は彼らだけの問題ではないことが描かれます。誰かの命を救うために、隊員らが自らの命を削るという現状。そこから脱するためには、現場で命を選別したり、自らの命を断ったりするほかないのでしょうか。そんな彼らを誰が救ってくれるというのでしょうか。世界中の救急救命の現場で今も苦しんでいる隊員がいるかと思うと、心が痛みます。

キャストは、ショーン・ペン、タイ・シェリダン、ベンガ・アキナベ、ラケル・ネイブら。どなたも救急現場の過酷さを伝える熱演で魅せてくれます。

おじゃる