「父娘の掛け合いが絶品」高野豆腐店の春 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
父娘の掛け合いが絶品
以前に単館系劇場である作品を観たときに予告編を観ていた。好印象だったのでその時から観たいと思っていたのだが、いかんせん上映している劇場が限られているので観るのが遅くなってしまった。
しかし、見逃さなくて本当に良かった。
【物語】
舞台は平成の広島・尾道。 高野辰雄(藤竜也)は出戻りの娘・春(麻生久美子)と高野豆腐店を営んでいる。厳選した大豆を使って丁寧に作り上げる豆腐の味は絶品で、東京に出して拡販する誘いも受けていた。しかし、職人気質の辰雄は生産量を増やすことはせず、地元のお得意様に手作りの美味しい豆腐を提供することに徹していた。
あるとき辰雄は医師から心臓の手術を勧告される。体に不安を感じた辰雄は、自分が居なくなった後の春のことが急に気になり、春の再婚相手を本人に内緒で探し始める。協力を頼んだ辰雄の友人たちは候補をリストアップし・・・
【感想】
なんでもない、庶民の家族の物語。 “おせっかいな仲間”の協力や娘の縁談話、親の病気、等々珍しくもないというか、書き並べてみれば完全に使い古されたエピソードで固められた作品。 強いて言えば、娘が初婚でなくて再婚話というところだけは今風か。
それなのに、凄く良い映画だった。
ありふれた話にも拘わらずいいと感じるのは脚本が作り込まれているせいだと思う。仲間たちの会話の中には意図的に強調されたコメディー的セリフもあるものの、そういうところ以外は極めて自然で違和感が無かった。 かなり時間をかけて推敲したことが推察される。
それに加えて、主演の藤達也と麻生久美子の演技が秀逸。特に父娘の会話における麻生久美子の受けが素晴らしい。
例えば父親の言葉に対する「ん?」のひと言。「ああ、これはリアルな親子の会話だ」と思わせるのだ。
そして迎えるクライマックスに涙が止まらず。
中盤までの父娘のごく日常的な遠慮の無いやりとりがあってこそだ。
久しぶりにしっかり泣かせてもらいました。
中盤での辰雄のセリフも心に沁みた。
「生き抜いて、最後にいい人生だったと言える幸せ」
これは、「いい人生だった」と言えるまで、どんな辛いことがあってもしっかり生き抜くという覚悟さえあれば、必ず幸せに辿りつけるのだと。
それまでしっかり生き抜こうと諭された思い。
小規模公開かつ既に公開終盤になっているので、観られるチャンスがある方は少ないと思うが、今後の配信も含めてチャンスが有る方は是非ご覧頂きたい。