「モラルヤバ女みたいな消費をするのも違う気がした」DASHCAM ダッシュカム styloさんの映画レビュー(感想・評価)
モラルヤバ女みたいな消費をするのも違う気がした
モラルが終わってるヤバくてタフな女vs怪異みたいな触れ込みというか、そういう感想をよく見かけて、そういう映画を期待して観に行ったんですが、実際観てみるとこの主人公そういう消費の仕方をするタイプのキャラ造形か?とはなった。
というのも、実際映画の段階のアニーは間違いなくヤバい人ではあるし、まぁ元々荒っぽくて下品な人ではあるのは間違いないんですけど、描写をみるに「コロナ禍でおかしくなってしまった」人なんですよね(こういう言い方も不適切なんですが)。コロナ前はここまでではなかったんじゃないかなぁ。
(演者のアニーでなく作中の)アニーはグッズTシャツも出ててきましたが昔はツアーもして多分結構人気のラッパーで、でもコロナ禍きっかけなのかそれはコロナ禍関係ないのかわからないけどラッパーとしておそらく人気がだいぶなくなってしまって、コロナ禍もあって尚更仕事もなく、ライブの訪問者だって20-30人くらいの固定客はいるけどって感じ。そんな状況でラッパー仲間で元彼のストレッチは自分のことも知らない自分とは全く違うタイプの女とイギリスなんか行っちゃってよろしくやってるし……。もちろんだからと言ってアニーの諸々の迷惑行為が正当化されるわけではないし、アニーはヤバいことはヤバいんですけど、「ヤバいことやったるぜ!ウェイ!」みたいなカラッとした感じよりなんか逼迫した悲哀みたいなものがアニーにはあるように感じた。猫に別れを告げるシーンとか、ウーバーイーツ配達員してるストレッチにその仕事は今需要あるから良いねみたいに揶揄するシーンとか。「おかしくならなきゃ耐えられない」みたいな。このライブ配信をみてる皆だけが私を肯定してくれると言っていたシーンはかなり切ない気持ちになった。
あとお漏らししたアンジェラをトイレ連れていってあげるシーンとかも、根っからモラル終わってたらもうあそこでアンジェラ置いて車捨てるとかアンジェラ道に放置するとかするんじゃない?など思っていた。お金はもう貰ったし。まぁライブ配信の撮れ高目的な可能性はあるけど……そういうアニーの根っからモラル終わってるのとは違くないかみたいなのがところどころあった。自分が勝手に期待した「モラル終わってる主人公」が終わりすぎてるだけかな。
なんというか実際コロナ禍でこういうおかしくなり方した人はたくさんいたし、作品としてそういうタイプの人を「揶揄」する意図はないんじゃないかなという気はする。むしろ同じ人間なんだよという地続きな感じ、というかそういうタイプの人の逆にタフとしか言えないおかしみみたいなものを描いてる作品なのかな。まぁライブ配信怪異ものというのが主軸なのでそこはそもそもそんなにこだわるところではないといえばそれもそう。
なんにせよ、映画を実際観るとアニーを「終わってる笑」みたいにして対岸の出来事のように切り離す消費の仕方をするタイプの映画かコレ?とは思った。一貫してライブ配信の画面で流れ続ける生っぽさ、アニーの「実際いる」感じ、ライブ配信越しに無責任なこと言いまくるコメントの生々しさなどを踏まえると、「アニーやば笑」みたいな消費の仕方って画面越しすぎて、そしてそういう安全圏で画面越しの消費をして欲しいと思ってる映画(そういうのはそういうので良いと思う)とはちょっと違う気がした。
映画自体は面白かったんですが、期待したクズな主人公が無茶苦茶するタイプのジャンル(そういうのも大好き)とは個人的にはちょっと違ったし、アニーをそういう消費するのなんかちょっと心痛むな、という感じでした。
とはいえモラル終わり度でいうと閉店した店のゆで卵の瓶に腕突っ込んで勝手に食べるシーンは終わってて最高だった。めっちゃ最悪なんだけど、まぁあの店も多分ろくでもないしな……とはいえ客に罪はないしろくでもないし店だとて最悪……。
映画全体についてだと、怪異ものとして目新しいところはあまりないんですが、テンポ早いし面白いシーンも派手なシーンもあって楽しかったです。テンポ早すぎて最後らへんなんかホラーゲーム実況観てるみたいな気持ちにもなった。ただ仕方ないけど一人称視点が多いのでちょっと酔う。
来場者人数がヤバいシーンになるとめっちゃ増えるのとかも良かったな、無責任で。血の色が赤すぎるみたいなコメント、グロ系の動画にあまりにつきがちなコメントで面白かったし、実際この映画の血の色は赤いので尚更笑えた。
アンジェラを追ってる怖い女の正体は…みたいなところとかも、王道だけどグッときた。
あと、こういうタイプの映画はそもそもタブレットとかスマートフォンとかパソコンとかで観るのが良いんだろうな〜とは思った。大画面で観て楽しかったけど。
コメントもちゃんと読みたいから配信でゆる〜と観たいな。
こういうタイプの演出してる映画、難しいのは承知なんですが画面の英語コメントとか英語表示のUIとか、そこに日本語を埋め込む形で日本語版作るとかできないんでしょうか……。そういうバージョンでも(そしてできたらその場合吹き替えで)観てみたい。この映画スラングも多いしラップばかりで翻訳も大変でしょうが、とはいえだからこそ英語で理解しきるには難易度が高すぎる!!セリフの字幕読みながらコメント追うのが正直厳しいところも多かった……。