「監督、きがへんになりそうです」ボーはおそれている おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
監督、きがへんになりそうです
意味深な予告に惹かれ、名優ホアキン・フェニックス主演ということで、公開初日に鑑賞してきました。先に観た「ハイキュー‼︎、」はほぼ満席でしたが、こちらの観客は10人程度で、話題性はあったと思うのですが、観客動員には結びついていない感じでした。
ストーリーは、不安障害を抱えてセラピーを受けながら一人暮らしをしている中年男性ボーが、アパートの隣人、街の住人など、全ての人に恐怖を感じながら生活している中、実家の母が事故死したらしいことを知り、入浴中に天井から見知らぬ男が降ってくる、全裸で車にはねられる、若い女の子から理不尽になじられる、森の中で不思議な芝居を観るなど、奇異な出来事を経験しながら、実家を目指す姿を描くというもの。
そう言われてもどんな話かわからないと思いますが、だいじょうぶです。私もわかっていません。はっきり言って、序盤から何がなんだか、わけがわかりませんでした。でも、終盤に、やっとの思いでたどり着いた実家で、ことの発端と一連の不可思議な体験の謎の真相がわかりかけます。「なるほど、そういうことか」とわかりかけたと思ったのですが、その後やっぱりまたわけのわからない展開へと続き、そのまま終幕となります。
全編通して、現実と妄想や幻覚、あるいは記憶とトラウマが複雑に絡み合った、得体の知れない気持ち悪さが漂います。観客の感じるこの感覚は、おそらく不安障害を患うボーが味わっている感覚そのものだと思います。これは以前に観た「ファーザー」とよく似た感覚です。ありふれた日常の中の些細な出来事が、最悪な事態に発展したり、悪意をもって自身に降りかかってきたりと、ボーは常に不安や恐怖を感じているのでしょう。
そんなボーを形成したのは、母・モナでしょう。全ての愛を注ぎ、いろいろな意味で自分の管理下に置こうしたことが、ボーの親離れを妨げ、外の世界への恐怖を植えつけたのではないでしょうか。モナにとってそれは、自分を穢す性器としか見えない夫への不満、出産の痛み、育児の苦しさから、自分を癒す行為でもあったのかもしれません。
本作では、水がキーアイテムとして描かれます。セラピストの処方薬を水なしで飲んで焦り、母の死の動揺を入浴で落ち着かせ、幼き日の浴室での出来事を回想するなど、水は安心感と恐怖心をもたらす表裏一体のアイテムとして描かれます。もしかすると、羊水のメタファーとして母そのものを表しているのかもしれません。そう考えると、ラストシーンの巨大プールのもつ意味もいろいろと解釈できそうです。
主演はホアキン・フェニックスで、これまでの出演作とまた一線を画す、さすがの演技で魅せてくれます。脇を固めるのは、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、ドゥニ・メノーシェ、パティ・ルポーンら。
The silk skyさん、そちらにコメントできなかったので、こちらに返信いたします。
こちらこそ、いつも共感&コメントをいただき、ありがとうございます。私もみなさんのレビューやコメントを楽しく拝読しております。これからもよろしくお願いします。☺️
おじゃる様、共感ありがとうございました!「ファーザー」でピンときましたが、本作は精神疾患持ち、あるいはドラッグ中毒者版「ファーザー」って考えますとかなり輪郭が掴めるような気がします。なかなか鋭いご指摘です!
羊水⁉️
そういえば、冒頭の数分はまさにその中からの視点でした。
産まれた瞬間から、羊水のシールドがなくなり、しばらくの間泣くのも忘れるほど外の世界に馴染めなかった⁈
ラストは再びそのシールドの中に帰っていった…ように思えてきました。
モナについての見解、なるほど!素晴らしい。水はそっかー、お薬の時のパニックもそうですね。ボーと母親の姓はワッサーマンでしたよね?ドイツ語だったらWassermann(直訳したら「水の男(人)、または水瓶座」。こういう姓の人はユダヤ系なんですが、監督もユダヤ系だと別の方が書いてらしてやはり納得しました!