「ほんわか感動ストーリーに隠された小さな鋭い牙」北極百貨店のコンシェルジュさん やまちょうさんの映画レビュー(感想・評価)
ほんわか感動ストーリーに隠された小さな鋭い牙
お客様が揃いも揃って擬人化された動物達で、そのお客様のご要望に答えるべく真心をもって奮闘する新人コンシェルジュ、秋乃さんのハートウォーミングストーリーです。
北極百貨店の従業員は基本人間でして日本的?おもてなしの心を体現をしつつ動物達に接客しております。
その中で新人のプレッシャーからか先読みし過ぎで暴走したり、お客様から預かった無理難題を無碍に断ることも出来なくてつい勢いで引き受けてしまう秋乃さんのドタバタが、その珍妙な所作(笑)も含めてコメディタッチで描かれます。
彼女の対応は常にオーバーフロー気味、やり過ぎ感は否めなくそれは時に滑稽なんですが、その気遣いや申し訳なく思う態度が上辺だけでないことは一目瞭然で、終始裏表なく生きる姿勢が見ていて美しく、本当に心温まる感じで良かったですね。
また、彼女から接客を受け、無理難題を聞いてもらった動物達のキャラも非常に立っていて愛すべきものでした。
特に「ニホンオオカミ」のお嬢さんのレストランでの彼に恥をかかせない咄嗟の対応がもう大和撫子そのもので、これがこの映画の最初の涙腺崩壊シーンであったことは、恥ずかしいのでここだけの話とさせてください(笑)。これ以外でも涙無しでは語れないエピソードに溢れておりますので綺麗に泣きたい方はぜひご期待を!
ただ、この物語が擬人化された動物達のほんわか感動ストーリーだけで終わらず、途中「北極百貨店の存在理由」として明確にネタバレし事実を突きつけられ、急にふわふわしたファンタジーとは別に、かなり現実味を帯びた重厚な世界観が構築されます。
この別立ての重厚な世界観の提示は小さな鋭い牙みたいなものに形を変え実は映画冒頭に提示されています。それがラストに気持ちよく回収されるのを観て、「うまい!これ脚本としても傑作じゃん」と、心の中でつぶやいたのはネタバレギリギリですがここで内緒で開示させていただきます。
ぜひこの素晴らしい作品をご覧になって、私同様、世界観の深みにハマっていただきたいですね。