劇場公開日 2023年8月25日

  • 予告編を見る

「幻想的な自然描写にノスタルジーと親しみがこみ上げる」ファルコン・レイク 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0幻想的な自然描写にノスタルジーと親しみがこみ上げる

2023年8月29日
PCから投稿

思春期の純情さや儚さを、自然を介して巧みに具現化した作品だ。ここカナダのケベックに広がる湖周辺は、眩い朝日が昇り夕日が沈むまでのあらゆる瞬間が美しい。夜は夜で、大人からくすねたアルコールも手伝って夜闇の幻想性に拍車がかかり、夜空の星やキャンプファイヤーが精霊の乱舞のように思えてくるほど。この地を舞台に、もう時期14歳になる少年バスティアンは、歳上の少女クロエを意識しながら、また少女も少年の心を弄びながら、互いに脆く繊細な胸の内を重ね合わせていく。16mmで撮られた映像が吸い込まれそうなほど淡く危うげだ。観る側にとって一度も訪れたことのないはずのこの地なのに、なぜだかノスタルジーと親しみが込み上げてくる不思議。そして我々は、永遠と見まごう時の流れに包まれながら、この瞬間がもう二度と戻ってこないことを痛みを持って思い知る。心の機微と自然の呼吸、いずれも余すところなく捉えた監督の手腕を讃えたい。

コメントする
牛津厚信