PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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斬新な表現
これがドイツ人監督の作品だと知って驚いた。
相変わらず自分の無知さに笑ってしまう。
その独特の表現方法には、普遍的な人間の感情と変化というものが描き出されている。
ただ、
数々の物語はあるものの、それらの一瞬を切り抜いたに過ぎず、主役の平山の物語でさえも、その一部分が切り取られているに過ぎない。
人との出会いは、インパクトがあればそれだけ記憶に残りやすいが、それがその瞬間だけということもある。
強烈な出会いによってある程度の期間一緒に過ごすことになっても、死ぬときは一人になるし、事情があって別れてしまうことは、この世の常だ。
この世界は同じに見えて絶えず変化しているのだというのが、この作品のテーマなのかもしれない。
平山が休日に飲みに行く先の女将と元夫
余命宣告と、どうしてももう一度だけ会っておきたかった元妻への思いは、彼にしかわからない。
しかし、
そんなことのいくつかが、自分の人生にもあるということは誰にでもあることで、その感覚を共有した時に、平山のように人は気づきを得て優しくなるのかもしれない。
さて、
妹の娘ニコは、なぜ平山を訪ねてきたのだろう?
彼女は平山の事情を知っていると思われる。
彼女の住む世界
少なくとも裕福で、恵まれているはずだ。
それでも家出をしたのには、家の事情があり、その事情故に家を出た平山の気持ちがニコにはわかる気がしたのだろう。
その貧乏で清掃員という仕事に身を置くことで、ニコは今後の自分の人生をシミュレーションしてみたのかもしれない。
ニコは昔平山からもらったバカちょんカメラを持って家出をした。
それは、当時の平山と今の平山は同じなのかそれとも違ってしまったのかというのを確かめたかったのだろう。
良かったのか、後悔しているのか? ここが彼女の視点だったように思う。
今でもバカちょんカメラで木を撮っているおじさんを見て、カメラをくれたときのシチュエーションを憶えているはずがないと言ったのは、あの時とちっとも変っていないおじさんを、とても信じられなかったからだろうか?
そもそも彼女を憶えているはずがないと考えたはずで、カメラを見せれば思い出すかもしれないと考えて持ってきたと思われる。
平山が何も変わっていなかったことは、ニコにとっての安心感と同時に、ひどく怖くなったのではないだろうか?
妹が訪ねてきた際、平山と父と確執があることがわかるが、その確執さえも変えられないおじさんに対し、ニコは彼女なりに思うことがあったのだろう。
だから素直に荷物を取って車に乗ったのだ。
このことについて古本屋の店主は「恐怖と不安は別物」と言ったのだろう。
おそらく不安が最初に起きることで、それが余計な憶測を交えたときに恐怖になるのだろう。
監督はこのパトリシアの本を読めと言っているのだ。
そしてニコはこの不安と恐怖が一緒になってしまった状態を迎えることになるが、それは誰にでも起きることで、これが彼女の成長点、つまり人生の伏線になっていくのだろう。
その本を読もうとする平山は、ようやくその事に気づき始めたということだ。
それが三浦友和さん演じた元夫の影の話と重なる。
平山は、清掃員の仕事を始めてから、ほぼほぼ毎日変わらないローテーションで生きている。
その世界は一般人とはまた少し違う世界だが、一般人から弾かれた人々とは微妙に接点があるのだ。
毎日たった一人公園でお昼を食べる女性
てぐちゃん
アヤ
特にアヤはいわゆる一般からはみ出しそうになっている女性で、だから彼女の世界にはないカセットテープのような年代物に憧れを抱くのかもしれない。
アヤはギャルというのか、今どきの格好をしているが、おそらく孤独だ。
他人からはレッテル眼鏡で見られ、同世代とは感覚が合わない。
カセットの曲がどれだけ彼女を慰めたのかはわからないが、1970年代ごろに触れたことで、彼女は少し勇気づけられたのだろう。
そして紙に書いた〇×ゲームも、誰かとの接点
平山の就寝と重なるモノクロ映像は、今日一日の出来事などが夢となって表れているようだ。
今日一日
また今日一日
そのローテーションは変わらないが、同じ出来事などない。
平山自身も、一瞬たりとも立ち止まってなどいない。
それはまるで「木」と同じなのだろう。
毎日が同じ中でも毎日違う。
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿なことないですよ」
平山は自分の言った言葉に自分自身が驚きと気づきを得たのだ。
それが最後の映像へとつながっていく。
気づきの喜びの笑み
それが次第に涙に変化する。
カセットから聞こえるのは、New me/New day/New world/bad world…
平山の涙は、自分の人生は決して間違ってなどいなかったという感じだろうか。
木と自分と元夫の男、そして出会った人々とが重なり合い、影が濃くなっていく。
自分も一つの影であり、一つの濃さを作り出している。
平山はきっとそう思って涙を流したのだろう。
表現方法が独特なので解釈も難しいが、人生の一瞬一瞬の貴重さと、人の表面上の認識、そして背後に広がっている実際の奥深さと重なりに気づけと、監督は言いたいのだろう。
中々考えさせられる作品だった。
なんにも変わんないなんて、そんなバカな話無いですよ
この映画のオーディエンススコアがなぜこれほどまでに高いのか、 自分にはわからないが、 役所広司という役者の演じる人物の好感度に大いに関係があると思っている。
動画配信で映画「PERFECT DAYS」を見た。
2023年製作/124分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2023年12月22日
役所広司(平山)
柄本時生
中野有紗
アオイヤマダ
麻生祐未
石川さゆり
田中泯
三浦友和
研ナオコ
平山は渋谷区のトイレの清掃員。
朝起きると、歯を磨き、ヒゲを整える。
草に水を遣る。
アパートの1階の部屋から出ると、
家の前にある自動販売機から缶コーヒー「BOSS」を1本買って飲む。
青い塗色のダイハツ・ハイゼットに乗り込むと仕事に向かう。
青いハイゼットは珍しいと思う。
ほとんどのハイゼットは白かシルバーだろう。
このての車を買う場合、
ダイハツ・ハイゼットとスズキ・エブリイの2択で
大いに迷う人が多いと思う。
自分もそうだった。
どちらの車にも捨てがたい魅力がある。
トイレを掃除し続ける平山。
セリフはほとんどない。
この映画の最初のセリフは平山の同僚(柄本時生)のもので、
開映から28分後くらいだったと思う。
仕事を終えた平山は家に帰り、
自転車で銭湯に向かう。
10数分で入浴を終えた平山は銭湯のテレビで大相撲を見る。
銭湯を後にして、駅にある居酒屋に入る。
そこで一杯やりながらプロ野球中継を見る。
家に帰ると、文庫本を読む。
就寝の時間になると眠りにつく。
これが平山の平日の1日のサイクルである。
平山という人は間違いなく善良でいい人だろう。
しかし結婚はしていない。
子どももいない。
休日には、平山はコインランドリーで、
つなぎの制服などを洗い、
古本屋で文庫本を1冊買い、
いきつけのスナックで1杯やる。
家に帰ると本を読む。
就寝時間になると眠りにつく。
この映画はひょっとして何も事件や大きな出来事は
起こらないんじゃないかと危惧した。
だいたいその通りだった。
同僚が突然やめたり、
家出をした姪が訪ねてきたり、
その姪を妹(麻生祐未)が迎えに来たりしたが、
ほとんど何も起こらない平山の日常を
淡々と描く映画だった。
ビム・ベンダース監督といえば、
「パリ、テキサス」などで著名な人物だが、
その作品を見たことは一度もなかった。
「台北の朝、僕は恋をする」という映画は見てみたい気がする。
この映画のオーディエンススコアがなぜこれほどまでに高いのか、
自分にはわからないが、
役所広司という役者の演じる人物の好感度に大いに関係があると思っている。
満足度は5点満点で3点☆☆☆です。
遠くに行った我が父に思い馳せる
ヒラヤマの姿と生活ぶりは、今年2月に亡くなった私の父親を思い出しました。彼は妻(私の母)を早くに亡くした後は一人暮らしでした。生家は小さく古い家で、私はあまり好きではなく早々に都会に出ました。
ずっと遠く離れて暮らしていたので、一人暮らしの彼が何を楽しみに毎日暮らしていたのかわかりませんでした。いつか質問したいと思っていたが、なかなか私は帰郷しませんでした。そんな中に彼は脳卒中で倒れてしまって言葉を発せなくなり、そのまま息を引き取ってしまいました。
遺品整理すると、彼(父親)のPCとスマホから大量の草花の写真が出てきました。
それでも私はわからなかった。彼が幸せだったのかどうかを。
この映画を見て、父親の過ごしたであろう日々に私は少しだけ思いをはせることができました。だから草花の写真をたくさん撮っていたのだろうかと。
しかし、まだ私にはわからない。この映画を見ても解決はしていない。
父親が幸せに暮らし、死において後悔したのか否かを。ずっと心に引っ掛かっています。
映画のラストシーンでは、新しい人生が毎朝始まるという曲に包まれる、ヒラヤマの表情からは両方に読み取れました。だから、わからなかった。
ただ、幸せだったのかどうかはわからないけど、毎日しっかりと生きる、Perfect daysだったのだろうとは思えました。
プライムビデオで見ました
哲学的
学生が作ったドキュメンタリーみたいだが、そうではない。ドイツの巨匠が撮った意味があるとおもう。主人公が毎日、同じように暮らそうとも周りが変化するのだから、彼の毎日も変化はある。住む世界が違うと兄を嫌う妹。しかし、主人公は、「ここには沢山の世界がある」という。人はその世界を変わろうと普通は欲をだす。すると生活が乱れる、足るを知れば心も乱れない。これは宗教感、哲学である。パーフェクトな世界なのだ。
最後の音楽の歌詞どおり、夜明けが来れば新しい人生、そして主人公の楽しそうな顔。彼の人生に迷いはなく、人生を謳歌している。幸せな気分になれる映画だ。彼の周りには自分の欲をどう扱っていいかわからない迷い人が集まり、知らぬ間に憧れのような好意まで抱く。掃除をするということは尊く、毎日がリセットもされ、僅かな不足は足し、大きな不足はまた別の世界になる。日本が仏教、神道、儒教を混合して信じてきた国ならではであるが、最近は無宗教を口にする人が多い。日本人ならではの暮らしぶりはここの宗教感から来ているのだ。でないと他国にもこのような国が現れるはず。
主人公は、自分の部屋も、あんなに綺麗にしていて、きっと彼は毎日が晴れやかだろう。そして彼だけでなくその前にも朝早く掃除をしている人がいて、はき清められる音で起きる。若者が嫌ったトイレそうじの仕事を次の女性が頼もしくシフトを引き受ける。貰った仕事に精一杯つくす。それが日本人感なのだろう。
平山の日々を乱すこと絶対許さない
暇なら観てもいいが…
これ、世界的な映画監督が撮った作品なんですか? すっごい俳優を使ってすっごい丁寧に作っているけど、僕には学生映画のちょっとよくわからない部類に入る程度の作品としか思えなかった。とにかく「匂わせ」が過ぎる。次から次へと匂わせるのだが、結局何がどうなってそうなったのかが全く描かれない。核心がないのだ。いったいこの映画から何を感じろと? セリフではいろいろとそれ風なことを言うのだが、その背景に何があったのかが描かれないので、映像に感情が乗って来ない。たとえば、十何年ぶり(数年ぶりかも)に会った妹が「あなたとは住む世界が違う」と言うのだが、いくら金銭的な差があっても職業の差があっても、「住む世界が違う」とまで言えるものだろうか。平山が「反社」だとか人を殺したというのならまだ言えるかもしれないが、独身でアパートに住んでトイレ清掃の仕事をしているからといって、そこまで言ってしまう妹はどれだけ人を見下げているのだろう、と思ってしまう。やはりそこをちゃんと描かないから、よく使われる言葉ではあるが違和感を感じてしまう。そのあと、平山は妹を抱きしめるんですよ! 意味わかんないですよ!
また、挿入されるモノクロの何かの残像のようなものが何なのか、結局最後までわからなかった。夢なのだろうか? だとしたらその夢の意味とは?
で、映画の文脈からすると、それまで平穏に進んでいた日常に次々と異変が挟まり始め、平静を保てなくなった平山が、異常を来して車を運転しながら涙を流す、という映画だったと理解してよろしいか?(よろしくないんだろうけど、そうとしか解釈できないのだ)
監督が小津安二郎のファンで、主役の名前が小津作品によく出てくる「平山」ともなれば、小津作品ばりのシャレの効いた映画なのかと思った(評価高いからもしかしたらと)が、全くそんなことはなく、同じなのは画面の縦横比だけだった。
画面には次々とファッショナブルな公衆トイレが映るのだが、結局トイレの主役は建物じゃなくて便器だということがよくわかった。
ただのトイレ宣伝映画ではありません
下を向いて歩こう
静かなる饒舌。(あそこに行ってきました。)
はい。よく私のやんちゃレビューを覗きに来て頂きました。
本作も今さらジローでございます。実はこの映画は好きすぎて、何も言えねー。北島康介状態。
それでロケ地巡りをしたんですね。聖地巡礼ってやつですね。
まずは代々木八幡神社。限界集落に住む私にとっては渋谷区って敷居が高い高い。真美子さんの身長くらい高い。
そんなに大きい神社じゃないんですが、立て看板を見て驚愕。なんと…
狸がいるんだと!
狸ですよ!狸!渋谷ですよ!渋谷!
平成狸合戦ボンボコを観てから、さらに有頂天家族を読んで、狸への愛が止まらない!オフコース状態。
まあ狸は夜行性なんで会えなかったんですが…
会いたかった!会いたかった!YES!
けどね、猫のムーンはいたよ!
思い切って、御朱印を貰うついでに巫女さんに聞いてみました。
あのう… 役所広司は見ましたか?
えっ!なんですか?
私、メッチャ不審者‼️
たまらず宮司さんが助け船。あっちのベンチで撮影しました。
あーーまだ若いからねー フォローフォロー。
待てって。当時居なくても職場がロケ地。観に行けよ!
まあ早々に渋谷を退散。ぶっちゃけ渋谷は怖いんじゃ❗️ ただあのキノコ型のトイレは写真を撮った。
俯瞰で見ると完全に不審者‼️
次に向かったのは浅草。城東地区のディズニーランドじゃけん.アウェーからホームに帰った気分じゃけ、めっちゃ落ち着くのう。
それで東部浅草の地下街にGOじゃ‼️
もちろん、お目当ては焼きそば居酒屋の福ちゃんですよ。金髪のお姉さんはきびきびと働いています流石に恥知らずの私でも禁断の質問(役所光司は…)は言えなかった。怒られそうでね。
こちとら撃たれ弱いんじゃ‼️
早々に退散。浅草から曳舟、押上とね。
逆、木根川橋状態。さだまさしファン以外の方、ごめんなさいねえ。そう言う歌があるんですよ。
知人にそう言う顛末を語ったら知人も同じ事をしていました。代々木八幡は共通。あのアパートに行ったらしいんですよ。場所は亀戸。
なんかメッチャローカルな話しでごめんなさい。
しかし雑談ばっかじゃ‼️ええ加減にせえよ‼️
とにかく静かな映画です。台詞が少ない少ない。レッドフォードのオール イズ ロストの次に少ない。
平山(役所光司)はトイレの清掃員。押上の自宅を出て.身支度をして自動販売機で缶コーヒーを買って渋谷区のトイレの清掃に向かいます。
前述したように寡黙。遅刻した若者にも説教はしません。ただ黙々と作業をこなします。メッチャ手垢のついた言い方だと判を押した毎日。
映画は淡々と平山のルーチンを描写します。
段々とわかって来ます。平山は丁寧に仕事をこなします。しかし平山の内面が伝わってくるんですね。読書と音楽、小さな実生を育てる事。実は豊かな精神世界を持っている事。周囲に対して優しい事。
生きるってレースじゃない。戦いじゃない。主義主張を声高に叫ぶ事じゃない。一夜限りのワンナイトショーじゃない。
単純だけど深い。そんなフィロソフィーを感じました。
平凡なめんなよ‼️
この映画は平山に共感出来るかどうか。そんな映画です。十人十色を認めるか、流行りの言葉だと、ダイバーシティ、インクルージョン。
だから退屈な映画だと言う意見には反対しません。
でも私にとっては深い映画でした。
お付き合頂き、最後まで読んで頂きありがとうございました。
PS カラオケ屋さんでトイレを清掃中の方にありがとうと、言うようになりました。
大抵びっくりされます。やっぱメッチャ不審者‼️
新しい夜明け、新しい日
良い映画を観た
公衆トイレの清掃員をしている平山。古いアパートに独りで暮らし、朝早く目を覚まし、植物に水をやり、身支度をし、缶コーヒーを買い、寝ると夢をみるなど、規則正しい毎日。寡黙だが、行きつけの店では顔なじみ。そんな彼だが、同僚に振り回されたり、姪が訪ねてきたり、とちょっとした変化もある。
良い映画を観た。慎ましくルーティンを繰り返す平山だけど、そんな毎日を楽しげに過ごしているよう。さらに急にやってくる変化を、ルーティンの邪魔ではなく、彩として受け入れている様子が頼もしく感じました。しかも、何か事情を抱えているようなのに。
キーレスではない車で、カセットテープを聞いていることに親近感を抱きます。聞いているのも耳なじむ曲ばかり。さらに彼は、ガラケーとフィルムカメラを使用しています。石川さゆりが歌うカバー曲も良かった。ちなみに元の曲はボブディランやアニマルズの「朝日のあたる家」。英語のままや日本語訳で八代亜紀やちあきなおみ、キャンディーズなど古今東西多数のアーティストもカバーしてます。
どのトイレも、びっくりするくらいおしゃれ。トーキョートイレで働くのもいいかな。
ミュージックテープって、今そんなに高いのか、結構持っています。登場する本は読んだことありません。
あるいは禅僧、あるいは自閉症者
こだわりの強い世捨て人の主人公が刻む、美しい日常生活のルーティーン。
漆黒の早朝。主人公は起床し、歯を磨き、整然と並べられた小物を手に取る。その儀礼的な所作だけで、観客は彼の人格を察する事だろう。朝日に照らされ始める東京の街を、彼の業務車両が滑るように走る。車載のカセットプレイヤー(そう、カセットプレイヤー)から流れる洗練された楽曲は、彼のこだわりの強さをさらに際立たせる。
変化を拒むようなルーティーンを繰り返す日々にあっても、人も風景も変わり続け、彼自身も変化から逃れることはできない。老い、同僚、そして家族。変わらない日常など幻想に過ぎないのだ。変化と不変、新しいものと古いもの。その両極端に囲まれた東京の中に、彼の孤独が静かに浮かび上がる。
本作は、「孤独のグルメ」的な美学あるスローライフと、「パリ・テキサス」を彷彿とさせるミドルエイジクライシスの要素を融合させた傑作です。日常の些細な出来事を掬い上げるミニマルな作風ながら、都市の喧騒と静寂が交錯する映像美、そして懐かしさを誘う音楽が映画としての「間」を充実させて飽きさせません。役所広司演じる主人公の無言の演技は秀逸で、言葉以上に主人公の内面を表現しています。キャリアの晩年にこれを撮れるのだから、やはりヴィム・ヴェンダース監督はただ者ではありません。
あえて欠点を指摘するなら、主人公が作品哲学を口頭で語ってしまうシーンが全体の繊細な筆致からはやや浮いています。また、主人公の「掃除夫に身をやつしているが実はインテリ」という意外性の薄い設定も、「インテリ視点の清貧賛美」という受け取り方をされてしまう可能性があります(これは作品に対する賛否双方に見られる)。個人的には、ポジティブに見れば世俗から離れて心の平穏を得る禅僧の物語、ネガティブに見れば孤立した自閉症者の物語、というバランス感覚に優れた映画として受け止めました。
最低でも80点は与えられる作品だと思います。しかし大きな賞を取れるような完成度(例えば90点越え)に僅かに届かなかったのも納得出来ます。それでも、この映画が映画ファンにとって必見の一作であることに疑いの余地はありません。
一歩間違うと寝ちゃいそうだけど、そこは。
全787件中、121~140件目を表示












