「耳を澄ます」PERFECT DAYS iroiromanさんの映画レビュー(感想・評価)
耳を澄ます
個人的に大好きな「パターソン」にとても雰囲気が似ていた。
平穏で静かな日常を送る平山の視点から見える世界は澄んでいて自然が煌めいている。
平山の毎日を充実させるのは、
・陽の光
・植物
・古本
・ハイボール
・サンドイッチ
・カメラ
・カセットテープ
・缶コーヒー
・人間観察
などなど
平穏な変わらない毎日だからこそ堪能できる。
心の幸せを得るのに、決して贅沢な生活はいらない。
しかし、姪との再会という"イベント"で、平山の表情は一気に明るくなる。平穏な生活で感じる幸せよりも、人との温もりで感じる幸せのほうが遥かに大きいことに気づく。
姪を迎えに来た妹とのやりとりから、人と距離を取るようになった彼の悲しい過去が垣間見えた。
厳格な父のもと育てられ、その期待に応えようと仕事人として忙しなく働いていたのか。。
一族経営の会社で妹とともに父のもと仕事をしていたのか。。
しかし、実利主義で忙しない環境に気を病み、厭世的な生活を送っているのか。。自宅の雑多な荷物の山からそんな背景が想像された。
明らかにはされないが、いろんな想像が頭を巡った。
姉と抱擁を交わした後の涙がとても切なかった。。
本当は大切な人と時間をともにしたいのだろう。でもそれをしたくてもできなかった過去があって、住む世界が違うと信じて、孤独感に蓋をしているのか。。
その後、突然辞めた同僚の尻拭いで朝から晩まで忙しなくトイレ掃除をする場面では、口調は荒くなり、仕事人時代の平山の姿が垣間見えた気がした。
最後の涙はなんだったのか。
美しい朝の景色に感動したのか?世界の美しさに涙が溢れたのか。
日々の幸せを噛み締めると同時に、抑え込んできた孤独感に苛まれ、単調に終わってしまうかもしれない自らの人生に悲しみの涙を流していたのか。
個人的には後者と感じた。
淡々と進み、説明もないのであれこれと想像を膨らますことができてとても良い。
表情だけで機微を表現する役所広司の演技が素晴らしかったです。