劇場公開日 2023年12月22日

「小津安二郎を追い続けたヴェンダース監督の、師に宛てた一つの回答ともいうべき一作」PERFECT DAYS yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0小津安二郎を追い続けたヴェンダース監督の、師に宛てた一つの回答ともいうべき一作

2024年1月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

東京で清掃作業員として働く平山という年配男性(役所広司)の日常を追った本作は、前半は淡々と、しかし飽きさせない描写が、そして後半は平山の来歴にかかわってくるような、少し謎を含んだドラマが展開しつつ、やっぱり淡々とした語り口を保つという、ヴェンダース監督ならではの作品となっています。

市井に生きる様々な人と、無口でさりげないけど温かみを感じる交流を重ねる平山の姿は、ヴェンダース監督の代表作『ベルリン・天使の詩』(1987)の天使(ブルーノ・ガンツ)とどうしても重なってしまうんだけど、さらに言えば、東京を舞台にしているという点においても、本作は同監督が1983年の東京を撮影した『東京画』(1985)の影響を感じずにはいられません。

40年前の若きヴェンダースは、活気あふれる東京の風景を、いっぱいの好奇心と小津安二郎監督に対する憧れに素直にしたがって撮影していました(異様にパチンコに執着を見せる)。それからちょうど40年後に撮影した本作では、ヴェンダース監督は単に小津監督への敬意を表するだけでなく、尊敬する師の映像美学の中核をなす要素、そして日本の美意識の深奥とは何か、という問いにまで踏み込んでいます。

TOTOから依頼された短編映画の企画から、ここまでの作品に仕上げるあたり、さすがヴェンダース監督だと感心しないではいられません。

絡みそうでなかなか絡まない登場人物同士の表情と視線の交わりがほほえましく、作中にちりばめた平山の人生にかかわる謎は謎のままで残しておいたことも、良い鑑賞感をもたらします。

古い木造アパートの一室でデスクライトが灯っているだけなのに、無上の美しさを感じさせたり、心打たれるような影と光のゆらめきなど、映像の美しさは特筆したいところです。平山の選曲もすごいセンス。

yui