「A new dawn, a new day, a new life」PERFECT DAYS ひろみちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
A new dawn, a new day, a new life
渋谷トイレプロジェクトの清掃員の日常を綴った作品。
錚々たる面々のデザイン性のある渋谷のトイレと訪れる渋谷の人々と、平山の住んでいる木造の築古アパートとスカイツリーの見える下町情緒溢れる街とそこに住まう地元のおじいちゃんおばあちゃん。東京という街の雑多性の表現がとても良いな。
ヴェンダース監督の東京の切り取り方、とても好きでした。銭湯やスカイツリー、首都高やスクランブル交差点、浅草、人力車、外国人監督だからこその、東京、そして日本に対する視点が分かりやすくも見入ってしまう都市の映像たち。普段見慣れている光景だからこそ、こうして映像で見ることで見える景色がまた変わってくる。東京という街で住んでいる自分だからこそ、この作品に出会えたことはとても貴重な鑑賞体験になった。
ことストーリーについては、トイレの清掃をするとりとめもない平山の日常を描いているだけ。同じような日常に見えて、そこには小さな変化が溢れている。朝家の扉を開けて見る空の色と外の空気。その日の気分によってかけるカセット。トイレの清掃中に出会う人々。昼ごはんを食べる公園の木の木漏れ日、、毎日規則正しくルーティンをこなしているからこそ、小さな変化を楽しむことができている。週末は洗濯をして、フィルムカメラを現像し、本屋さんに行って本を買い、スナックのママに会いに行く。これを毎回毎回繰り返す。
平山がニコに対して言っていた「世界は色んな世界がある。繋がっているようで繋がってない世界もある」。まさに環世界的考え方、平山は自分の世界をもっていて、その世界を楽しむことが出来ている。大好きなカセットを楽しみ、フィルムを楽しみ、読書を楽しみ。外の空気を感じ、木漏れ日と対話し、日常の小さな幸せを見つけ、感じる。
豊かさとは、幸せとは何か?みたいなことを感じさせられる。
平山から離れていったタカシや、ニコのお母さん。
「何でトイレ掃除なんてやってるの」見た目や金や世間体を気にして生きてく人々。
一方で平山に近づいてきたニコや、アヤ。
自分の好きなもの、好きなこと、世界の中での自分の世界を形づくりつつある人々。
この二項対立もじわじわ来る。小さくても、幸せを感じて噛み締めることができる人が豊かなのか、世間的には成功して見える人が豊かなのか。
そんな大切なことを、この穏やかな美しい映像の中で語りかけてくれた素敵な作品。
中でも印象に残ってるシーンは
ニコのお母さんとの別れ際の涙するシーン。
世界が繋がれないことの悲しさなのか、ニコをどうすることもできない悔しさなのか、父親を思い出したことによるものなのか。
そうは言っても、やっぱり世界は人との繋がりで出来ている。自分の中で幸せを見つけることができることは素晴らしいこと。それがあるからこそ、それを誰かと共有出来ること、一緒に涙できること、笑えることがより一層幸せなものに感じるんじゃないかな。
車の中でかかる70.80年代の音楽がとても良い、東京をまた違った景色に映してくれる。
役所広司の渋さと、
ニコ役の中野有紗がとっても良かったので今後に期待。
2024年一発目にして、とっても良い映画に出会えました。