「「完璧な1日」の再発見」PERFECT DAYS Yutes79さんの映画レビュー(感想・評価)
「完璧な1日」の再発見
役所広司さんがカンヌで主演男優賞に輝いたことで、年の瀬から新年にかけて国内で最も注目を集めている作品と言えるのでは。
役所さんの本作での芝居に関しては、他にもたくさんその凄さを見せる作品があるので、日本の映画ファンにとっては「?」と感じるところもあるかもしれません。ただ、ラストで見せる悲喜交々の表情を同時に見せる芝居には唸らせられます。このシーンが海外でも評判になっていたようです。
主人公の平山は渋谷の公衆トイレの掃除が仕事。仕事のある日は決まった時間に起き、決まったルーティンで仕事に出かけ、仕事後の銭湯から夕食、寝る前の読書まで、ほぼ決まった毎日を送り、休日も掃除や洗濯、買い物など毎週ほとんど変わらない生活を送っている。そんな男の日常の中に、”PERFECT DAYS (=完璧な日々)の要素がいくつも描き出されていきます。
まるで「こんな幸せもあるよね」と語られているようで、ストレス社会に生きる人や、生活に刺激が無いと感じている人たちに救いを与えてくれているようです。
恥ずかしながらヴィム・ヴェンダース監督の作品は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』しか観たことがなく、監督がそうした「救い」を描くことを意図していたのかもわかりませんが、「何もないような日常こそが完璧な一日なのでは」というメッセージを感じずにはいられませんでした。
あと魅力的だったのは主人公が毎朝の出勤中にカセットテープで聴く音楽。60-70年代の洋楽が中心で、本当にうまい選曲。特にアニマルズやパティ・スミス、ルー・リードがフィーチャーされ、個人的には大好物です。ヴィム・ヴェンダース監督によると、主人公の平山が聴く可能性のなさそうな曲は排除すべく、かなり入念に曲選びをしたとのことですが、やはりマニアックな曲もあり「いや、多分聴いていないでしょ」と突っ込めそうなところもありましたが、いずれにしてもサントラは買いです。
海外でも話題になっている作品ということで、本作でロケ地となった渋谷区内の公衆トイレはロケ地巡りの聖地にもなるかもしれませんね。ただ、登場するのは"The Tokyo Toilet"のプロジェクトで設置されたおしゃれな公衆トイレばかりなので、海外の方には日本の公衆トイレが全てこんなにキレイなトイレであると勘違いもされそう(海外に比べれば比較的どこもキレイではありますが)。本当はもっと一般的なトイレが出てきた方が作品をリアルに感じられたのかもしれません(本作は元々同プロジェクトがきっかけで生まれた作品なので、仕方ないところもあったのかなとは思います)。
他にもなぜ、現代ではを描いた本作を4:3で撮ったのかなど細かい疑問もありますが、とにかく印象に残る、観て良かった作品でした。