劇場公開日 2023年12月22日

「木漏れ日と溶け合う陰影」PERFECT DAYS penさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0木漏れ日と溶け合う陰影

2023年12月29日
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鑑賞方法:映画館

冒頭の風にそよぐ樹木の映像。まずその映像に胸を打たれました。

東山魁夷の絵画のような深く甘い緑のその色彩は、朝日が昇り始める前のまだ輪郭がはっきりしていない光に溶け合いながら、静かに揺れ動き、やがて主人公のもとに届けられることとなる「木漏れ日」のために、整斉とそして黙々と準備をしているようにも見えました。そして平山の静かな、豊かな一日が始まるのです。

映画は淡々とした日常を追ったものなのですが、私は、誰もが絶賛するラストだけでなく、この冒頭シーンから何故か目頭が熱くなり、最後まで1秒たりとも眼をはなすことができませんでした。

映画「パリ・テキサス」で、確か弟が、放浪する兄トラヴィスを迎えに行く車から眺められたアメリカ・テキサスの空。地平線近くは黄金色に染まっているが曇天部分の面積のウエイトが圧倒的に大きいあの空・・・この作品冒頭の東京の空は同じ色に染まっていました。

平山やニコの中にある心の闇や不安、哀しみの全貌は何も明かされることはありませんが、彼らとトラヴィスの心象風景は、双方の映画の冒頭の空の色が象徴していたように思います。でもこの作品のそれらは夢の中で木漏れ日と溶け合い一遍の陰影のある音楽や絵画となって、その豊かさを結実させているように思いました。

「ああきれいだな」

平山と同じように空や木漏れ日をみあげ、そう思うことが多いです。でも何気ない日常が美しいと思っていても、それを自分で写真や映像で撮ってみると、陳腐なものになってしまうことがほとんどで、がっかりします。しかし、この映画の映像や音は、主人公の微妙な心情の変化とともに、その美しさを奇跡的に余すところなく伝えているように思いました。カメラや音響の技術的な卓越さなのか、その理由はよくわかりませんが「これだ。この感覚だ。」そう思いました。

素晴らしい映画でした。

pen