劇場公開日 2023年12月22日

「電通プロデュースの"禅ムービー"」PERFECT DAYS ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0電通プロデュースの"禅ムービー"

2023年12月29日
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さすが天下の電通プロデュースということもあり、世界一撮影許可が降りないと言われるここ東京で、巨匠ヴィム・ベンダーズによる長編映画が公開されることになるとは思わなかった。

昔の話だがあのイギリスの巨匠リドリー・スコットでさえも「ブラック・レイン」の撮影で東京を断念し、大阪にロケを移したことでも知られるくらい東京は許可がおりない。らしい。

そんな中本作は電通とユニクロのファーストリテイリング社と渋谷区による「THE TOKYO TOILET」という今時の言葉を使えば公共トイレのアップデートを行うというプロジェクトの一環として企画された。

トイレ掃除というどの映画でも金持ちの考える底辺の仕事は"これ"と言われる仕事に従事する中年の男の日常をドキュメンタリー風に追っていく。

首都高速など誰もが日頃目にする風景がヴィム・ベンダーズ演出の下映し出されるのは感慨深いが、肝心のトイレがカッコよすぎ、綺麗過ぎて、不自然なほど汚物や吐瀉物の描写を避けているように感じられ違和感があった。

"木漏れ日"という日本語にしかない自然と影の捉え方の説明がエンドロール後に入るように、本作はいわゆる日常の影に生きている人に目を向けるような映画になっている。トイレ掃除はもちろん、主人公以外誰の視界にもはいらないホームレスなどがそれだ。

しかし、主人公は根っからの貧乏ではなく、家柄の良いお坊ちゃんが自らあの生活を選んで暮らしているということが後半わかってくる。ルーティンをこなし、ミニマルに質素に暮らしていく。しかし読書などの知的な活動は継続する。

まさに禅マインドのそれであり、物や情報に溢れ、日常に退屈した富裕層が飛び付きそうな暮らしである。

いわゆる“小津ショット"と呼ばれる無人の風景ショットや構図、音楽のチョイスに彩られ、最後の役所広司の演技でトドメを指す。

ドイツの巨匠を呼び、狙い通り日本人俳優にカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞をもたらした企画力と実現力は素晴らしい。

この映画は主人公のセリフがほとんどない代わりに主人公の周りの人間が喋ったり、主人公の背景や考えを投影するような登場の仕方になっているのは非常に文学的だ。ここはとても好きだ。

木漏れ日のように日常とは同じように見えて、同じ瞬間は一度もない。毎日が新しい。だから、毎日大切に生きようというメッセージは禅ムービーの締めくくりに相応しい。

ヘルスポーン
ヘルスポーンさんのコメント
2023年12月29日

トミー様
コメントありがとうございます。
ヴェンダース監督が東京で映画を撮るという夢のような企画でしたね。

ヘルスポーン
トミーさんのコメント
2023年12月29日

こういう自意識を持って生活している人は多々居るんだと思いますが、ヴェンダース監督と我々の感覚にははっきりと違いがあり、だからこそこんなに美しく作れたのだと思いました。

トミー