「本当の豊かさとは」PERFECT DAYS villageさんの映画レビュー(感想・評価)
本当の豊かさとは
期待を裏切らない素晴らしい映画だった。
役所広司演じるのは、大都会東京の片隅で、トイレ清掃員として暮らす無口な男。毎朝夜明け前に目覚める規則正しい生活。お気に入りの音楽をカセットテープで聴きながら車を走らせ、キビキビ仕事をこなした後は、銭湯で汗を流し、行きつけの地下街の飲み屋で晩酌をし、文庫本を読みながら眠りにつく。ただその繰り返し。小さな苗木を育てること、お昼休憩のときに木漏れ日の写真を撮ることをささやかな楽しみとして、生活を送っている。
日々の小さな喜びや感動を大事にするその姿は、いわゆる孤独とは無縁のように見え、心の豊かさとはこういうことなんだろうと感じさせてくれる。
自分一人で完結しそのサイクルの中で安定した、正に完璧な毎日だ。
その一方で、他者との関わりが、その「完璧さ」に波風を立てることがある。不確実性が生み出すストレス、心のザワツキ、消せない過去の記憶、憧れや愛情、喜びと悲しみ。
生きていく上でそれらを避けては通れないこと、個人の世界から一歩踏み出して、人とつながりを持つことの重要性を示唆しているのかなと思った。
毎日眠るときに、夢が映像化されるのが印象的だ。白黒の残像、記憶の断片。良い目覚めもあればそうでない日もある。こうやって1日1日リセットをしながら、日々の営みを繰り返していく。決して表には出さないけど、心の奥底に積み重なり、今もなお背負い続けているものがあるんだろう。
単調な映画なんだけど、驚くほど感情が揺さぶられた。
願わくば、こういう大人になりたい。