「料理が紡ぐ人間関係が行き着くところは」ポトフ 美食家と料理人 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
料理が紡ぐ人間関係が行き着くところは
代表的なイメージショットは、今年9月に公開された同じフランス発のグルメ映画『デリシュ!』と同じなのだが、描くテーマはほぼ正反対。『デリシュ!』は宮廷を退いたシェフが謎めいた女性料理人の助けを借りて、それまで貴族のためにのみ存在したフランス料理を民衆に解放する物語。その過程でシェフと料理人の間には愛が芽生えていく、という展開だったが、本作『ポトフ』は同じフランスの定番料理の名前をタイトルにはしているが、主人公の美食家と、彼の希望を具現化していく料理人は、もっとクールで、だからこそ強い絆で結ばれている。見ていてそこにぶっ飛んだ。食を介して人間関係を描くと、どうしても情緒に傾きがちだが、トラン・アン・ユンの演出は最終的にその種の傾向とは無縁なのだ。
しかし、次々と登場するフランス料理の完成度は『デリシュ!』以上。東京でもフレンチレストランを経営する三つ星シェフ、ピエール・ガニェールが監修した舌平目のクリームソース、子牛のポワレ、アイスクリームが中に入ったノルウェー風オムレツは、映画の後味はどうであれ、視覚から食するに値するもの。このシーズンに打って付けの作品だ。
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