「東洋思想とフランス流ガストロミが融合した奇妙な味わい」ポトフ 美食家と料理人 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
東洋思想とフランス流ガストロミが融合した奇妙な味わい
エスコフィエが38歳、というセリフが出てくるので1884年か1885年の設定ということが分かる。
清仏戦争がありベトナムがフランスに割譲された頃。ひょっとしたらトラン・アン・ユンは意図してこのセリフをはめ込んだのかもしれない。
冒頭、延々と美食家と料理人が友人たちとの午餐のための料理をするシーンが続く。スープからデザートまでコース一式が出てくる。場内ではいびきかいてる人もいたし後でロビーでそこが長いって文句を言ってる人もいたけどここは料理の個性というか思想を紹介しようとしているところなので映画の肝になりますね。ただ年代的には当然なのだけど、彼らの料理はトラディショナルなフランス料理の範疇で、バター、クリームとフォンを多用した重厚なものであることは変わりはない。新鮮な野菜をドッサリ使っているところとフォンが魚ベースであるところが魅力なのかな。
ユーラシア皇太子(これがどこの人なのかよく分からない。モンゴル人っぽいから中央ユーラシアのウズベキスタンとかトルメキスタンあたりか?)のお招きのメニューのバルザック流というか満漢全席のえげつないものに比べればモダンなんだけど。ちなみにユーラシア皇太子にポトフを供するプランは料理人が死んだので実現しません。もしやってたらちゃぶ台ひっくり返されていたかも。
美食家が最後の方で、自分の料理について、言葉で説明をします。これが調和に重きをおく東洋的な思想に彩られているようでした。最後の「料理人か妻か」っていう問いも禅問答みたいですね。
ヨーロッパでは絵とか音楽が19世紀末に東洋の影響を受けたことは確かです。でも料理までそのような流れがあったのかどうか。多分にトラン・アン・ユンの創作によるものとは思いますが。そういう意味では、この映画は「バベットの晩餐会」や「ショコラ」のようなガストロミ(食文化)系というよりは「ディーバ」とか「キッス・オブ・ドラゴン」などと同じフランスを舞台とした東洋趣味の作品だと思うのです。(長々書きましたが私は嫌いではありません)