「背景にある社会的構造は?」落下の解剖学 めんたんぴんさんの映画レビュー(感想・評価)
背景にある社会的構造は?
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自宅のバルコニーから転落死した夫の死が、自殺なのか妻による殺人なのかをめぐる裁判の話。唯一の証人である息子は目が不自由という設定になっている。
全体としては淡々と展開していくが、夫婦喧嘩のシーンと法廷でのシーンが迫力があった。
夫婦間に屈折した関係性がある。成功している妻と挫折した夫。夫の被害者意識とその被害者意識を疎ましく思う妻の関係性。逆の立場も含めれば、多かれ少なかれ多くの夫婦間に見られるのではないか。結局のところ真実は不明である。しかし、妻の殺人だと断じている人達には、自殺であろうと他殺であろうと夫を死に至らしめたのは妻だという思いがありそう。
全体的な構造として女対男になっている。妻の味方は女性で、敵は男性だ。唯一男性で妻の味方なのは弁護士だけ。ただ、この弁護士は古くからの友人であり、かなり親密な関係がある。妻の味方ではあるが、妻の無実を心から信じているとは言い難い気がする。一方でアシスタントの女性弁護士は妻の無実を信じて疑っていないようだ。
なお、息子にとっては夫婦間の争いでどちらの側につくかの結論を迫られることになる。息子の目が不自由なことも家族の関係性を表すメタファーになっている。
登場人物の性別がすべて逆になったら、まったく異なる印象を受ける映画になりそうだ。そう考えると『落下の解剖学』というタイトルは奥深い。この出来事の背景にある社会的な構造を解剖しているようだ。
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