「狂気!」アステロイド・シティ Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
狂気!
アステロイドシティという“裂け目”に墜落した隕石。その大きなクレーターが不気味な口を開け、終始不穏なイメージがまとわりつく。
アメリカの東部の都市と西部の砂漠、テレビと演劇、夢の舞台と舞台裏、大人と子ども、豊かな生活と核の恐怖、女優とシングルマザー、宇宙開発の科学とロマン、未知との遭遇と軍の隠蔽、原住民と白人などなど、それはもう“裂け目”のてんこ盛り。
複数のアクターの視点によってつくられるネットワークにおいて主体は切り離されている。まるで夢の中のよう。凝りに凝った映像と手法で、この夢のような裂け目の世界に誘い込むのは何故だろうと、不思議な気分に浸っていると頭をガツンと殴られた。
全シーンがカットされた妻役のマーゴットロビーとの対面のシーンだ。
それまでの風ひとつ吹かない荒野から一変、雪の舞うNYのバルコニーで、彼は亡くなった妻からのメッセージを受け取ることができた。
リアルと虚構が補完し合い、信じられないほど美しかった。
最後の裂け目は「眠りと目覚め」だった。それぞれの事物が主体を持たない虚構(夢)の中で、言葉という主体性がグッと立ち上がること。それが目覚めであり物語や芸術の本質だ。
あらゆる要素を精度高くまとめあげる手腕はまさに狂気じみた芸術だった。
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