「【”19万ドルの宝くじに当選したシングルマザーの息子は”母さんの為にダイナーを買う!”と町の皆の前で誇らしげに言った。今作は王道の喪失と再生の物語であり、ラストは可なり沁みる作品でもある。】」To Leslie トゥ・レスリー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”19万ドルの宝くじに当選したシングルマザーの息子は”母さんの為にダイナーを買う!”と町の皆の前で誇らしげに言った。今作は王道の喪失と再生の物語であり、ラストは可なり沁みる作品でもある。】
ー 今作の主人公、レスリーを演じたアンドレア・ライズボローは「オブリビオン」でその美しさに驚き、以降ほぼ総ての出演作品を観ている。端役が多いが、存在感ある女優さんである。
だが、今作の彼女は、アルコール依存の役故に眼の下には隈があり、品の無い真っ赤なルージュを唇に塗り、常に悪態をついている。
そのギャップに可なり驚くが、今作の彼女の演技に対し、ケイト・ウィンスレットは”私の人生で観た最も素晴らしい演技。”と評したと言う。-
■アメリカ地方都市に住むレスリーは、彼女がシングルマザーだった若き時、宝くじで19万ドルの大金を得ていたが、6年後、その金はほぼアルコールに消え、彼女はアルコール依存になっていた。そして、家賃滞納で家を追い出され”ピンクの旅行鞄”と共に息子のジェームズの家を訪れる。
だが、彼女の悪癖は治っておらず、ジェームズの同居人の男から金を取り、”呑むな”と言われた酒をこっそり飲み、ジェームズの家を叩き出される。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・どうしようもない母親だが、高額宝くじに当選した人は、ある割合で身を持ち崩すというデータを観たことが有る。特にそれは貧富層に多いという。
・レスリーは高額当選した町に舞い戻るのだが、小さな町ゆえに彼女が犯した愚行は、町中の人が知っており、彼女は揶揄いの対象になる。且つては友人だったダッチやナンシー(アリソン・ジャネイ)からも・・。
ー レスリーが当選当時はやっかみもあったのだろうな。その反動であろう。但し、ナンシーはレスリーが置いて行った幼きジェームズの面倒を見ていたためか、彼女に対する態度は更にシビアである。だが、これが再後半の効いてくるのである。-
・レスリーがいつも持ち歩いていた”ピンクの旅行鞄”の中に入っていたモノ。
ー それは、古ぼけた息子の手紙であり、幼き息子が写っている多くの写真であった。ー
・ダッチとナンシーの家に一時的に入れて貰うも、直ぐに喧嘩になり、行く当てを失った彼女はスウィーニーとRSDの遣り過ぎで時折オカシクなるロイヤルが経営するモーテルで働く事になる。
ー それでも、寝過ごしたりしているが、徐々に部屋の清掃をしているうちに生活習慣が戻って来るレスリー。だが、夜になるとバーに出掛ける日々。
自分の犯した過ちが許せずに、世間に怒りを叩きつけるレスリーの姿。
そんな彼女を献身的に支えるスウィーニー。彼も又、妻と上手く行かずに屈託を抱えていたのである。-
■白眉のシーン
・6カ月が過ぎ、レスリーは人生をやり直そうと、モーテルの敷地の中に有った建物をダイナーに改装する。
だが、夜になっても誰も来ない。レスリーはロイヤルの服から酒を取り蓋を開けるも、匂いのみ嗅ぎ、ギリギリ呑まずに堪える。彼女はその前にハイになってパンツで駆け回るロイヤルの姿を見ているのである。
そして、閉店しようとしたときに、ナンシーがやって来る。彼女が言った言葉”謝るよ。アンタの姿を見て楽しんでいたんだ・・。”そしてナンシーはレスリーが町を離れた時に別れたジェームズを店内に入れるのである。
漸く訪れた親子の時間。
嬉しそうにスパゲッティを息子に出し、カウンター越しに二人は抱き合うのである。
且つて”母さんの為にダイナーを買う!”と言ってくれた息子に、自ら立てたダイナーで食事を供したレスリー。彼女の表情は晴れやかさで、満ちているのである。
<今作は、正に王道の喪失から再生の物語であるが、それを支えているのはレスリーを演じたアンドレア・ライズボローの圧倒的な演技である事は間違いないのである。>
<2023年8月5日 刈谷日劇にて鑑賞>