「令和の任侠物に拍手!」ハマのドン 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
令和の任侠物に拍手!
横浜のカジノ建設を巡り、地元選出の国会議員で時の首相でもあった菅首相や林横浜市長の向こうを張って、カジノ反対運動を展開した「ハマのドン」こと藤木幸夫に密着したドキュメンタリー映画でした。テレビ朝日の製作で、監督の松原文枝もテレビ朝日の政治・経済部の記者(現在はビジネスプロデュース局イベント戦略担当部長)。テレビ局製作のドキュメンタリー映画というと、2月にTBS製作の「日の丸 寺山修司40年目の挑発」を観ましたが、本作の方が遥かに面白かったです。
なにゆえに面白かったのかと言えば、一言で言うとドキュメンタリーでありながら内容的にはほぼ任侠物だったから。主人公である藤木幸夫は昭和5年生まれで、今年で御年93歳になる横浜、そして全国の港湾労働者を束ねる現役の”大親分”。父親の代から”三代目”こと山口組の田岡一雄組長などとも交流があった人物でしたが、現在はヤクザ社会とは一線を画しているという。
そんな迫力満点の藤木が、時の首相や市長が推進するカジノ構想に真っ向から反旗を翻し、最終的に打ち勝ってしまうと展開は、ドキュメンタリーとは思えず、まさに任侠映画そのものでした。勿論昭和の任侠物のように、健さんよろしく長ドスを振りかざして殴り込みを掛ける訳ではなく、横浜市長選でカジノ反対派の候補を応援し、勝利を収めるというのだから、令和の任侠物は実に民主的なものでした。
藤木があまりに格好良すぎて、逆にリアリティがないような気もしたものの、自公政権が絶賛推進する統合型リゾート(IR)=カジノの内幕を丹念に取材しており、反対派の藤木の正当性が理解できるように創られていました。
このカジノ構想、例によってアメリカの圧力によって推進されたもので、アメリカのカジノ業界がトランプ政権に働きかけ、そこから安倍政権に”命令”が下って法案が通された様子は、植民地”日本”の無様な姿の象徴する出来事でした。
中盤になり、アメリカのカジノの設計を手掛けているというアメリカ在住の日本人が登場し、藤木にカジノの種明かしをするところも見所。カジノ誘致で地元が潤うかのように喧伝されているものの、カジノ側は客の金をカジノで全て吸い上げるので、地元に還元などしたらカジノは負けであると説明。また、カジノ業者も、売上の半分は日本人から稼ぐと発言しており、結局は富裕な高齢日本人の金をアメリカに召し上げてやろうという企みであるという説明に、反米派の私は首肯するばかり。
惜しむらくは、カジノの皮算用が如何に風呂敷を広げたものであるかなどについて、数字を使って説明して貰っていたらもっと良かったかなと思いましたが、任侠映画に数字などを持ち出しては野暮というものなのかも知れません。
以上、ドキュメンタリー映画を観に行って任侠物の風を感じるとは思いも寄りませんでしたが、わざわざ横浜シネマリンまで足を延ばし、地元の人達にとともに鑑賞した甲斐がありました。最後は拍手する観客もいたほどの盛り上がりで大満足しました。