劇場公開日 2023年4月7日

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「情熱と革命の情報戦」AIR エア つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5情熱と革命の情報戦

2024年7月22日
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鑑賞方法:VOD

今はどうか知らないが、バッシュと言えばエアジョーダンである。バスケと言えばマイケル・ジョーダン、ジョーダンと言えばエアジョーダン。
バスケ部だった私も、そりゃできる事ならエアジョーダンを履きたかった。だが、私にはちょっと手が届かないシロモノだったので、せめてメーカーだけでも同じものを、と思ってナイキを履き続けた。
そんな思い出も蘇る憧れのバッシュ、エアジョーダン誕生の物語が「AIR/エア」である。

勝手な思い込みなのだが、てっきりエアジョーダンはマイケル・ジョーダンとナイキが協力して生み出したバッシュなんだと思っていた。NBA選手として活躍しだしてから、「じゃあ貴方モデルのバッシュを作りましょうか」みたいな。
ところが実際は、まだ新人で未知数の選手を「こいつは活躍する!」という見込みのもとに口説き落として契約を結び、実際活躍したら宣伝になるよね、みたいなギャンブリングな話なのである。
考えてみれば、スター選手になったらそりゃあ宣伝効果は抜群だが、スターであるがゆえに契約するのも難しくなのだから当たり前なのかもしれない。

という感じで、全然開発の話じゃなかったのだ。開発はするんだけど、それはあくまでも契約の為だし、むしろ契約が取れるか否かを賭けた情報戦の映画だ。結果がわかっているとは言え、なかなかにスリリング、且つ侠気溢れる情熱の話でもある。
マット・デイモン演じる主人公・ソニーの情熱然り、ベン・アフレック演じるCEO・フィルの覚悟然り。
また、一方でジョーダンの母・デロリスがその才覚からスポーツビジネスシーンに新秩序をもたらす革命の話でもあった。
当時の黒人、それも女性の地位を考えると、どんなにビジネスに長けていても、それを発揮する機会なんてなかなか無かっただろうと推測される。そんな中、ヴィオラ・デイヴィス演じるデロリスは一家の安泰の為、息子の人生の為、経済に「消費される才能」という構図そのものを変革する提案に至る。
今となってはハリウッド映画のギャランティなどにも適用され、当たり前となった契約形態だが、その端緒を切り拓いたのは間違いなく「エアジョーダン」だろう。

マイケル・ジョーダンが特別な存在であることに間違いはない。バスケ少女だった私にとっても彼は別格で、まさに「バスケの神様」としか表現できない存在だった。彼の姿に感動し、彼のプレーに興奮し、「空を“跳ぶ”ってどんな気持ちだろう」と想像しながら、ボールを追いかけていた。
だが、「AIR/エア」を観て最も偉大だと感じたのは、彼の母デロリスの方だ。彼女の存在は息子マイケル・ジョーダンだけでなく、その後に続く若者たちの将来をも変えていったからだ。

たった一足のバッシュに様々な人物の「これがベストの選択なんだ」という気概が乗る物語。ところどころコミカルなテイストなのも面白い、満足のいく作品だった。

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つとみ