「彼こそがシューズだ」AIR エア sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
彼こそがシューズだ
NBAには全く詳しくないが、マイケル・ジョーダンがどれほど凄い選手かは知っている。
そしてエアジョーダンが世界中から愛されているブランドであることも、過去には3億円という破格の値段で落札されたことも。
しかしこの映画を観るまでは、ナイキがバスケットシューズ業界の完全な負け犬であったことを知らなかった。
そして名声を得るためには時に常識やルールを破ってでも信念を貫き通す覚悟が必要なのだと改めて考えさせられた。
まずバスケットボール部門の立て直しを命じられたソニーの直感力が凄い。
彼はまだデビューしたばかりのマイケル・ジョーダンのプレイを観て、彼こそがNBAを牽引していくスーパースターになると確信する。
しかしマイケル・ジョーダンはアディダスを贔屓にしており、ナイキのことを毛嫌いしていた。
それでもソニーは予算を全てマイケル・ジョーダンに注ぎ、契約を取るべきだと訴える。
直接マイケルの自宅に赴き、熱意を伝えようとするところにソニーの揺るぎない自信が覗える。
しかしジョーダン一家を実質的に取り仕切る母親のデロリスは簡単にマイケルには会わせてくれない。
このデロリスもまた揺るぎない信念を持った人物で、マイケルにとって常にベストな選択を行おうとする。
そこに妥協は一切ない。
エアジョーダンの試作品が出来上がる過程も興味深かった。
NBAではシューズの配色に規定があるのだが、出来上がったのはマイケルの所属するブルズのカラーでもある赤を基調とした斬新なデザインのものだった。
そして規定違反の罰金はすべてナイキが負担することになった。
ソニーはプレゼンの席で、このシューズはマイケルが履くことで初めて意味を持つ、人はいつか忘れられるものだが、このシューズによってマイケルは永遠の存在となる、そしてそれだけの価値がマイケルにはあるのだと訴える。
マイケルにとって常にベストを考えるデロリスはこのソニーの言葉に心を動かされるが、彼女は契約するための条件を付け加える。
それはエアジョーダンの売上の一部をマイケルに支払うことだった。
業界では完全に常識破りの条件だが、デロリスは一切折れない。
契約が取れなかったことで項垂れるソニーだが、CEOのフィルはソニーの信念を信じ、契約を受ける判断を下す。
フィルもまた名声を得るために大きなルール破りを犯したのだ。
結果的にこの判断が後にナイキに大きな利益と名声をもたらすことになる。
もしマイケルと契約が取れなければ、ソニーは職を失う運命にあった。
さらにリスクを負ったのは彼だけでなく、フィルもマーケティング担当のロブやハワードも同じだ。
並の神経ならまず思い留まってしまうが、それでも彼らを突き動かす運命の力のようなものが働いたのだろう。