「渋みと古典を楽しむ」探偵マーロウ うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
渋みと古典を楽しむ
古き良き探偵小説の定番要素が詰まっている一本だった。現代的に翻案することを排しているので、タイトルを見て探偵映画として謎解きを期待する人や古い推理小説の様式を知らない人には小さな話に見えてしまいそうな点が心配になるくらいである。
なかなか全てを語らない依頼人、有能であるが故に水面下で関係者たちに奪い合われる探偵、酸いも甘いも噛み分けざるを得ない警察…。伏せたカードの読み合いにも似た駆け引きが続くストーリーに、物静かでありながらも抜かりないリーアム・ニーソンの佇まいがマッチしていた。
エンドクレジットを見てロケ地に驚いた。当時のロサンゼルスのざらついた空気や街並みは現代のバルセロナのとある一画に近いらしい。意外なロケ地の他、夜のシーンで室内灯に使われる電球色よりも黄色い独特の照明の色にも趣やこだわりを感じた。レトロ感だけでなく、その色が作る深い影が曲者たちの表情を際立たせていた。
百戦錬磨のテクニックで戦うリーアムも良いが、渋みのある佇まいで重く画面を引き締めるリーアムも良い。
目にも鮮やかなヒーローや多種多様な個性を謳う映画が軒を連ねる中、雑踏の中を無言で行き来する男の背中を追う時間も悪くないと思える作品だった。
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