「あの日から、毎日があなたと一緒の木曜日」アナログ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あの日から、毎日があなたと一緒の木曜日
携帯を持たない女性に恋した青年。
今の時代にアナログな、切なさとピュアな純愛が期待出来そうだが、原作小説がビートたけしなのが驚き!
毒舌な笑いや監督作ではヤクザやバイオレンスのイメージだが、『あの夏、いちばん静かな海。』『Dolls』など恋愛映画も撮っている。自身初の恋愛小説。
携帯などで気軽に連絡が取れ、出会いもデジタル化。そんな今、“直接会う”事を大切にする二人。
会いたい気持ちがあれば、必ず会える。
たけしが紡ぐアナログな恋の行方は…。
街中のお洒落な喫茶店で出会った二人。
悟とみゆき。
悟はインテリアデザイナー。みゆきは商社勤めらしいが、何処か謎めいている。
悟がみゆきが身に付けていたものを、みゆきが悟がデザインした店の内装を気に入ったのがきっかけ。
また、会えませんか…? 連絡先を…。
が、みゆきは携帯を持っていないという。
以来、毎週木曜日、この店で会う事を約束。
にしても、もどかしい!
時には来れない時も。
悟は仕事の出張で。入院中の母が亡くなった時。
みゆきも家族の都合で。
会う店は決めているんだから、馴染みのマスターに言付けを頼むとか出来るだろうに…。
アナログを通り越して不器用。
でも、そのもどかしさや不器用さが、かえって相手を思う優しさや温かさで包む。
きっと何かあったんだろう。会いたいけど、仕方ない。
相手を縛り付けたり、急かしたりしちゃいけない。
携帯やスマホを持っていたら、連絡取れるまで鬼電や執拗なLINE。そういうのって関係を悪くしがち。
今週ダメなら、また来週。
都合が悪い時以外は、ほぼ毎週会う。
会って、美味しい店で食事したり、クラシックコンサートに行ったり、海に行ったり。
デートもアナログ。
その雰囲気、関係性、好演も温かい。
インテリアデザイナーとしての才能やセンスはピカイチ。が、優しすぎて貧乏くじ引く事も。絵に描いたような好青年。
これが全て演技だったら天性の才! 二宮和也のナチュラルさ。
波瑠の魅力大爆発! その美しさ、品の良さ、可愛らしさ。
当初たけしは執筆の際、TVドラマで共演経験のあった竹内結子をイメージしたそうだが、竹内結子も合いそうだが、波瑠だって!
清潔感際立つ衣装の数々も。本当に今、こういう女優さん稀有になった。他には松下奈緒くらいか。
“悪友”がぴったりの桐谷と浜野のWケンタ。
口数少ないが、リリー・フランキーの佇まい。
内装や小物が本当にお洒落。映像や音楽も美しい。
二宮とWケンタのやり取りは3人の素のようでもあり、お笑い芸人たけしならでは。
本作がたけし自ら監督だったら、もっと個性があったろう。
タカハタ秀太の演出は、作品雰囲気に寄り添い、落ち着いたものになっている。
携帯を持っていなく、焼き鳥屋も初めて。
ちょっと浮世離れの生粋のお嬢様…?
“音楽”について詳しい。が、クラシックコンサートを途中退場。
何か陰や過去を秘めているみゆき。
実際、みゆきの事をほとんど知らない。みゆきも悟の事をほとんど知らない。
が、それでも構わない。一緒にいたい、一緒に生きていきたい。
悟は遂にプロポーズを決心するのだが…
その日はみゆきが予定あり。一週間後、話したい事があると約束。
しかしそれから、みゆきが店に現れる事は無く…。
プロポーズのプレッシャー感じてフラれたのか…?
だとしたら、自分が悪い。落ち込む悟。
仕事では重要ポストを任されて、大阪へ。
会えぬまま…。目に見えて落ち込む悟。
一年が過ぎ、悪友から報せが。
みゆきの素性。プロポーズしようとした日、何が起きたか…。
本名は奈緒美。世界的なヴァイオリニスト。
ドイツ人音楽家と結婚していて、死別。
コンサートを途中退場したのは、亡き夫を思い出すから。
音楽関係の過去は薄々察しが付いたが、結婚や死別までは予想出来なかった。実は突然のファンタジー的な秘密や病気などと予想していたので。
日本に戻ってから空虚な日々をただ送っていたある日、あの店で悟と出会う。
また人生に光や温もりが。
一週間に一度だけ、彼と過ごす日々が何より楽しい。幸せ。
みゆきの姉が見せてくれたみゆきの日記に、その全てが込められていた。
自分の一方的な思いだけじゃなかった。彼女の方も同じだった。
が、そんな時起きた悲劇…。
あの日、みゆきは交通事故に遭っていた。
命は助かったが…、事故の後遺症で意思の疎通が出来なくなり、下半身麻痺の車椅子。今は家族が介護しているという。
姉に頼んで、会わせて貰う。
やっと会えた。が、以前のように話したり、気持ちが触れ合ったりはもう…。
いや、それでも彼女は彼女だ。
悟はある決心をする…。
みゆきが携帯を持たぬ理由が今一つ分からず。素性を知られたくないからか、もう悲しいだけの人との関わりをしたくないからか。
悟の決心や周囲の配慮はかなりご都合主義。悪人の居ない皆善人のファンタジー世界。
いい話過ぎてちとリアリティーに欠けるかもしれないが、やはりラブストーリーはハッピーエンドで終わりたい。温かく、希望を感じさせるラブストーリーを久々に見た気がする。
みゆきを襲った事故は『Dolls』の残酷さを、美しい海辺の風景は『あの夏、いちばん静かな海。』を思い出させる。
たけし流ラブストーリー。実はロマンチスト。
意思の疎通が出来ないみゆきが、ラストシーンで必死に伝えようとした言葉。
そう。これから毎日が、あなたと一緒の木曜日。