「不毛の大地で狂気に身をゆだねる。」マッドマックス フュリオサ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
不毛の大地で狂気に身をゆだねる。
家族を殺されたディメンタスはこの狂気に満ちた世界に身をゆだねた。無秩序なこの世界、法もなくただ欲望のままに搾取を繰り返し貪り食らう。その彼に母親を殺されたフュリオサは復讐を誓いそしてやがて成し遂げる。だが、フュリオサは彼のように狂気に身をゆだねることはなかった。
ディメンタスとフュリオサの違いは何だろうか。この狂った世界で正気を保っていられた理由とは。
フュリオサには信じるべきものがあった。たとえ母を奪われても彼女には帰るべき心のオアシスがあった。そのオアシスの存在のおかげでこのマッドな世界でも彼女は正気を保ち人間性を失わなかったんだろう。
ディメンタスにはこの狂った世界に信じられるものなんてなかった。唯一の心の支えである家族を奪われ、彼はその家族を奪ったけだものたちと同じ存在になり果てた。
二人の戦いは人が混沌とした世界で人間性を投げ捨てその世界に身をゆだねるか、それとも信念を持ち続け人間性を失わず生き続けるかの選択の戦いともいえた。
そしてこの戦いにフュリオサは勝利し、子生み女たちを開放して、自分の故郷を目指すのだった。それはまさにこの混沌とした世界における人類の一縷の希望を思わせる。
不毛な争いを続け命を奪うのが男なら、命をはぐくみ命を紡いでゆくのが女なのかもしれない。
予想していた通り前作のフューリーロードに比べて作品的にはかなり落ちる。前作はその特異な世界観と何より映像のド迫力と息をもつかせぬ怒涛の展開で見る者を圧倒した。本作はその点でも二番煎じだし、前作ほど刺激的でもない。
肝心のキャラクターも弱い。こういう娯楽作品では悪役が重要で、いかに悪役がその極悪ぶりを発揮できるかが作品の出来を左右する。
ディメンタスを演じてるのはこれまたマイティーソーという微妙なヒーローを演じてきたクリス・ヘムズワース。今回の悪役で一皮むけると期待したが、悪役としては何ともおとなしい。フュリオサの敵となる人物だが直接彼が手を下すわけでもなく、劇中彼を悪役として憎めるほどのものがなかった。
とにかくキャラクターの印象が薄い。フュリオサのキャラクターも弱い。アニヤがいままで演じた役の中で取り立てて魅力あるキャラクターとも思えなかった。
総じて娯楽作品としては期待に応えるほどの出来ではなかった。二時間の尺に収めた方がもう少し中身も凝縮されて見ごたえあったかも。興行的に振るわなかったというのも納得。