劇場公開日 2024年2月9日

「心の闇」夜明けのすべて R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 心の闇

2025年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2024年の作品
この作品は物語というジャンルだが、非常に象徴的に「人の心の揺らぎ」を紡ぎだしている。
そのために物語という構図が当てはめられたのだろう。
この心の揺らぎの振れ幅が一定の範囲を超えると、身体に現れてしまう。
それに病名がつけられることになる。
PMSとパニック障害
そしてこの物語のテーマは「失ったと、思っていた」ことなのかもしれない。
この「青い鳥」にも似た型は、人間が考える不条理や理不尽などを通して、人々が求めている「それ」を見つけ出しに歩かせるきっかけを作り出しているのだろうか。
藤沢が失ったのは職場
高校時代に顕著になってきたPMS
自分自身を消去法で探しても答えは見つからないままで、1か月に数日間起きるPMSの所為で苦しんでいる。
しかし、その苦しみは連鎖したのだろう。
母がなぜリハビリ施設に通わなければならないようになったのか?
「語られない」それは、娘の心配が招いた原因不明の体調不良だろうか。
藤沢の転職先となった栗田科学
ここで出会った山添
彼から感じる閉鎖感
まずその異質な感覚に感化されたのが藤沢だった。
また始まってしまったPMS 同僚から心配されてしまう。
そして、
突然始まった山添のパニック障害 自分と同じ薬
「自分と同じ」 これはひとつの糸口になるのだろう。
それでも山添の閉鎖感は、藤沢を寄せ付けない。
藤沢に起きた気づきと、それを受け入れない山添
「髪を切ったこと」
変になってしまったことが、山添の笑いを思い出させた。
おそらく彼は、2年間笑うことを忘れていた。
大きな会社はパニック障害で退社したが、また復帰したいと思っていた。
しかし調整は難航していた。
寄り添ってくれている彼女
しかしキャリアアップと「それ」とを天秤にかけたのだろう。
山添のアパートで話さず、「外」に連れ出したのは、彼がパニックを起こさない場所ではなく、パニックになっても「外」で自分のキャリアアップの話をすることにしたからだろう。
2年という歳月は、簡単に男女の仲を破壊する。
面白いことに、山添は藤沢に対し「男女の友情」のありか、なしかについて語り始める。
その対照は間違いなく藤沢だったはずだ。
元カノと比較してキャリアもなければチビ でも、次第に回復し始めている体調の原因こそ、あの笑いにあったことに気づいている。
そして山添は言う。「藤沢のPMSを、起きる前に止めてみる」
「誰かのため」 または「何かのため」
味覚を忘れ、感覚を失い、他人と自分を完全に分けていたころとの違い。
自分の周りから消えてしまったもの 失ってしまったと、思っていたもの
これらを取り戻すように思い出し始めたこと。
アノニマス会で栗田社長が言った言葉 「弟が、突然いなくなった」
この言葉には、直接的なことを覆い、彼自身の心から何かが消えてしまったことを意味しているように聞こえた。
やがて発見された弟の声
プラネタリウムに込めた想い 大航海時代や星座の意味
弟が思いを寄せた大宇宙
そして、夜があるからこそこの世界の咲にある世界を知り得たという事実。
「夜についてのメモ」
この移動式プラネタリウムの解説を手掛けながら、山添はやりがいを掴んだ。
藤沢は、同じくこの解説に関わりながら、自分を支え続けていてくれた母のことを考え始めたのだろう。
語られない母のリハビリの理由
「自分の所為」
藤沢は、母に寄り添う人生を選んだ。
それが彼女にとっての答えだった。
2024年現代 単純に藤沢の選択を指示する人は少ないだろう。
でもそれこそ、いま彼女が出した答え。
赤い手袋に込められていた母の愛
それは今始まったことではなかったはずだ。
絶えず隣には母が見守っていてくれていた。
そして、その時間は少しずつ消えていく。
そう思った時、藤沢は母に寄り添って生きることに「意味」を見出したのだろう。
その選択に誰も何も言ってはならない。
山添と同じように、ただ見送るだけだ。
辞表を持って朝一出勤してきた藤沢に、栗田はただ辞表を受取ったが、その目に浮かぶ涙
それを見て藤沢の眼にも涙が浮かぶ。
何気ない日常で、変わってしまう瞬間
寂しさ
それでも毎日の日常は変わらないようだ。
失ったと思っていたものは、そこにあった。
それに気づいた時、人は成長するのだろう。
「夜についてのメモ」は、この世界に何故昼と夜があるのかを伝えていた。
PMS パニック障害という「夜」があったからこそ、二人はそれぞれ自分自身を再発見した。
そして、
夜になればまた朝が来るように、その間際の夜明けの直前に、気づきという「奇跡」がやってくるのだろう。
これは、物語というよりも純文学に近い。
このジャンルを使って「心の闇」から朝になる瞬間を捉えている。
なかなか知的な作品だった。

R41
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