「太陽が向こうから近づいてきていると信じている人のレビュー」夜明けのすべて Don-chanさんの映画レビュー(感想・評価)
太陽が向こうから近づいてきていると信じている人のレビュー
新しい映画なのにレトロ感がある映像。
劇中に登場するカレンダーを見ると、まさに今の日本が舞台になっている。
藤沢美紗(上白石萌音)が、親元を離れて自立してから始まる夜明け前の苦しみの時期と、のちの夜明けに至るまでをじっくり丁寧に描いている。
藤沢は、薬を見付けて山添(松村北斗)に渡したり、自転車を譲ったり、髪を切ってあげたりするが、今作に登場する男女は誰一人として月と太陽のごとく一線を越えず、お互いを欲したり交わろうとしない。
性欲が存在しない架空の世界なのだろうか。
整列している星の夜空の見えかたからは、プラネタリウムのように空のほうがゆっくり動いている考え方のほうがしっくりくるし、もし誰かが言うように地球が自転公転していたら、物理の法則によると夜明けの度に定期的に地震のような衝撃があるはずである。
世界の仕組みも人の體の仕組みも、すべてが解き明かされてしまわないように、知識の共有を阻む何かがあることを感じざるを得ない。
夜空のように全てが繋がったまま、徐々に明るい方向へ好転していく。
栗田和夫(光石研)の弟が残した数十年前の記録が、内容はともかく時空を超えて未来の誰か(藤沢たち)に届いたのは素敵なことである。
ずっと穏やかなBGMで、刺激的なことは特に無いまま終わったので拍子抜けしたが、なぜか余韻が抜けない作品。
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