「生き辛い、しかし、生きたい」夜明けのすべて みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
生き辛い、しかし、生きたい
うつ病が心の風邪と言われて久しいが、実態は何も変わっていない。本作は心の病に苦悩しながらも、社会と向き合い懸命に生きようとする二人の男女の物語である。
人間は一生の間に色々な病に罹る。治癒する人もいれば、持病として一生その病と闘う人もいる。それでも、大抵の人は、普通の社会生活を送ることができる。日本の社会もそれを認めている。しかし、一つだけ日本の社会が許容できない病がある。心の病である。
本作の主人公は二人の男女。PMS(月経前症候群)で、月に一度、月経前に精神状態が不安定になり発作が起きる藤沢美紗(上白石萌音)と、パニック障害で、突発的な発作が起きる山添孝俊(松村北斗)である。二人は転職先の会社で隣り合った席になる。そして、ある日、山添のある行動が美紗の発作を誘導してしまう。そのことを切っ掛けに二人は自分の境遇を打ち明け、友達とも恋人とも違う互いに助け合う関係を築いていく・・・。
二人の距離感が絶妙。発作が起きた時には助け合う。普段は自己主張をぶつけ合うが、喧嘩にはならない。心の病に罹った者同士の相互理解、相互信頼ができ、心の病と闘う戦友と言うべき関係だから。
生き辛い、しかし、生きたい。という文字が画面に映し出された時には、はっとした。二人は心の病に不寛容な生き辛い社会に絶望せず懸命に生きようとしている。挫けていない。胸が熱くなった。
二人は、出会ってから徐々に生気に溢れ、プラネタリウムの企画では、見事にミッションをクリアする。生まれて初めて二人が生きている喜びを感じた瞬間だろう。
二人が出会った転職先での仕事仲間達は、二人の病に寛大で、出来過ぎ感、違和感があったが、社長もまた心の闇を抱えた人間だと知り得心した。己の痛みを知るものは他者の痛みを理解できるのである。
日本社会の心の病に対する不寛容は、過去の偏見と理解不足が生み出したものである。心の病を熟知し、心の病に罹った人達が生きがいを感じる社会作りが喫緊の日本社会の課題だろう。
みかずきさま
>レビューを書く前提で映画を観ると、より深く映画鑑賞できると思います
『東リベ』にいただいたコメントで、『夜明けのすべて』をもう一度観てレビューを追記して書き上げました。
みかずきさんのレビューを読んで時間が経っていたので、読み返してみたら同じ視点があってうれしかったです。
コメントありがとうございました。相手への理解を深める為には、それぞれが自身の想像力を育てることが不可欠と思いますが、今の社会はタイパ・コスパ重視で、そんな余裕が無いですね。
共感ありがとうございます
みかずきさんのレビュー、日本の現状を的確に述べておられ感服しました。
自身、劇中に出てくる薬を飲みながら社会生活を送る身。
この映画をみて、感慨を覚えた次第。
良いレビュー読ませていただきました。
ありがとうございます