「深夜から朝にかけて観たい」夜明けのすべて NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
深夜から朝にかけて観たい
前提として
・三宅唱監督の他作品は未視聴。
・原作小説は未読。
心地いい……
まずは山添と藤沢、二人の会話がいい。いつまでも聞いていたくなる。会話のリズムというか、声のトーンというか、空気感・温度感というか、コントというか……日本語の心地よさすらも感じる。
最初の関係性は、ぎこちないただの同僚だったものが、お互いを助ける存在になっていく。
二人が互いの病気とか知ろう、何か助けられることがあったらしよう、と少しづつ歩み寄っていく様子が微笑ましい。でも近すぎないぐらいの距離感なのがまた良い。
"同僚"とか"仲間"というワードが最もしっくりくるのかも。"友人"でも"恋人"でもない。もちろん"家族"でもない。だけども「なにかあった時に居て欲しいな」「なにかあったら知らせたいな」という人。逆に距離感が近すぎると言えないことも、その人なら言えるかなっていう他人感もある。
辻本さんや栗田さんなどの周りで見守ってくれている人たちがまた優しい。どういう立場で山添と藤沢が会社に居るのか、どういう期待をされているのか。こういった様子もうかがい知れる。その眼差しが穏やかで安心する。
物語に大きな"転"があるわけでも、衝撃的な展開があるわけでもない。ハリウッド等のエンタメ映画をコーラに例えるなら、この映画は温かい緑茶に近い。
気分を落ち着けたいときにはものすごくいい。穏やか。
高画質じゃないのもいい。昼の窓辺のワンカットが非常に心地よく、前向きな気持ちにさせてくれる。
深夜から朝にかけて観たいし、疲れたときとか鬱な気分の時に観たい。スクリーンを超えて伝わる優しいまなざしが、ちょっとだけ自分に寄り添ってくれる。
僕には二人のような病気はなく、病気の描き方がどこまで現実的なのか分からない。当事者からするとどうなのか? 我々の独りよがりになっていないか? それは分からない。
でも、導入的な意味合いでは分かりやすくていいと思う。
逆に自分がそういう診断を受けた際には観直したいし、友人からも意見を聞きたい。今の自分とは違う見方ができるだろうから。
じんわりと心地いい。もう一回観たい。そんな作品。