「ポール・メスカルの危うさ」aftersun アフターサン orokamonoさんの映画レビュー(感想・評価)
ポール・メスカルの危うさ
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2023年公開作品の中で、静かながら高い評価を集めていた一本。
本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたポール・メスカルの名前を、当時は正直「……誰?」と思っていた。
それがその直後に『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の主演俳優に抜擢。
彼の評価の原点とも言える作品を観ておこうと配信で視聴した。
事前に頭に入れていたのは「父と娘のひと夏のバカンス」という設定だけ。
しかし観始めてすぐ、独特な演出とカメラワークに戸惑い、正直なところ置いていかれそうになった。
これは分かりやすさや親切さを優先した映画ではない——そう感じながら、眉間にしわを寄せたまま観進めていたと思う。
後半に入り、ポール・メスカル演じる父・カラムの内面に潜む“危うさ”が徐々に輪郭を帯びてくると、物語の焦点が一気に定まった。
自分にとっての決定的な分岐点は、あの「鏡に唾を吐く」シーンだ。
危険なタイミングで道路を渡ること。
道端に落ちたシケモクを吸うこと。
免許もなくスキューバダイビングをしてしまうこと。
振り返れば、カラムのささいな行動の一つひとつが、強く頭に焼き付いて離れない。
それらは決して大きな事件ではないのに、後からじわじわと意味を持ち始める。
そう考えると、ポール・メスカルがこの役で高く評価されたことに、深く頷かされる。
派手な感情表現ではなく、崩れそうな均衡を身体の奥で抱え続ける演技。
『aftersun/アフターサン』は、観終わってから静かに心を侵食してくる、忘れがたい映画だった。
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