「ありふれた日常なのに深くて美しい」aftersun アフターサン くーさんの映画レビュー(感想・評価)
ありふれた日常なのに深くて美しい
最初、スローテンポなのとあまり説明してくれないので観るのが苦痛に感じたが、
旅先という非日常ではあっても、ごく普通に生きてる親子という意味でありふれた日常なのに、
とても大切なものを美しく映した映画と感じた。
カメラの切り取り方が良い。
ベッドに座った父が鏡とテレビに反射して映ってるのとか。
バスで移動してるとき車窓からの風景とか。
大事な話をしてる父娘を遠景で湖?の中にポツンと映すとか。
ソフィが感情や自分にとっての大事なことを、言葉にして父に伝えられてるのがすごいなと思った。
自分の頭で考えて生きていれば、11歳でもあんなにしっかりしてるのかな。
父の好きな歌を、一人でも、上手くなくても、小さな声でも最後まで歌ったり
近くに居合わせた人に父の誕生日を祝ってと頼める愛にあふれた娘。
お互いに大切に思ってて、言葉で関わり合えてて、
羨ましかった。
30歳というのに、娘と並ぶと兄に見える見た目の若々しさとは裏腹に、愛しているから大切だからこそ?言えない自分の苦しみを抱えて苦しんでいる父…
一人置き去りにしてしまった夜に、ソフィを探しに行くのかと思いきや昏い海に飛び込んでいたり、全裸でベッドに突っ伏してたり、一人でむせび泣いていたり…
愛しているよ、忘れないで のメッセージとか
なんでも話してね、覚えていてね、と伝えたりとか、
真摯に娘と向き合う父としての姿は、老成していて、
苦しみを他責にせず自分の中で苦しんでいるように見え、この父と娘に幸せになってほしいと願ったけど、はっきりとは描かれないがそうはならなかったのだろう…
故郷のことを、「生まれ育った地でも一度離れると居場所でなくなる」「故郷と感じたことはない」
「行き着く先は誰にもわからない」
「生きたい場所で生きろ」
「なりたい自分になれ」
「時間はある」
と言いながら娘の眉やおでこを撫で続けた父に、
苦しみから逃れて日常のささやかな人生を生き続けてほしかった。
遠くからでも、娘と話せる相談相手として生きててほしかったと思う。
(なぜか私には父があのあと自ら死を選んだように思えてしまって…)
でもそれは父にとって解放なのかな…
少しだけ映った大人になったソフィが、あまり幸せそうに見えず、父の不在を感じた。