「余白に家族への思いを巡らす」aftersun アフターサン スライムさんの映画レビュー(感想・評価)
余白に家族への思いを巡らす
私は「近くにいない」家族を思う映画を好んでしまう。「近くにいない」とは物理的な距離のことでもあるが、死別しているとか蟠りを抱えているとか、そういう複雑さを持った関係性のことでもある。
また同時に、ホームビデオやフェイクドキュメンタリーのような「キャラクターが映画内でカメラを回している」映像も好んでしまう。ジョス・ウェドン版ジャスティスリーグの、冒頭のスーパーマンのシーンのような演出などである
アフターサンは、そんな私が心惹かれてしまう要素を入れ込んだ映画な気がして、とても気になっていた。
しかしこの映画はそんな私の期待を良い意味で裏切ってくれた。
ホームビデオのような映像を軸に、大人になった主人公が今は亡き父の記憶に思いを馳せていく映画なのかと思っていたら、大人の主人公はほとんど出てこず、父とのとある夏休みの旅行についてひたすら語られていく映画だった。
だがその「ある時間」を非常に丁寧に描くことで、父と娘、この家族が一体何を抱え生きているのかということがとてもありありと映し出されていた。大人になった主人公の恋人の女性が一瞬映ることで、夏休みの間に主人公が何を思って周りのカップルを見ていたのか、何を思って少年とキスをしたのかなどについて、良い広さの余白で考え巡ることが出来た。
実際にその夏休みの間に起きた出来事しか映していないにも関わらず、その出来事一つひとつに、キャラクターの葛藤が結びついて効果を発揮しており、よく練られた演出だと唸ってしまう。
「ある時間」だけを使って、こんなにも深い家族の物語を仕上げることが出来てしまうのかと思った。私はこの映画を見ている最中、自分の家族のことを思ったし、この映画がエンドロールに入ったあとは、この映画にでてきた家族のその後についてとても気になった。そうやって感情移入したり、キャラクターや物語のその後を思える映画は良い映画なんだと思う。
父親の誕生日を祝うシーン、あれは本当に良いシーンだ。