「「これ、変な仕事じゃないだろうな?」」J005311 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「これ、変な仕事じゃないだろうな?」
作品名は、かなりこじつけを感じた(白色矮星はそもそも死んでいる星なので、その死んだ星同士が奇跡的に衝突し、そのエネルギーで光り出したが、それも終息に向かう運命)が、ストーリー内容は凄まじい位リアリティに富む作品である
先ずは主人公の生気のない顔や動き、そして死神に取憑かれた様な姿勢が秀逸である 自殺をする人の演技の正解がここにはある 細かい演出もリアリティに拍車をかける
生きづらさを抱えたままの主人公の、その整理整頓された部屋内が映し出される度に上手く社会と折り合いを付けられない性格の真面目さと融通の利かなさをキチンと印象付けるオープニング 上司からクビを言われたのだろうその連絡に、かねてから準備していたのであろう計画を実行に移す しかしいざやってみると簡単には彼の地には辿り着けない そんな中でたまたま目撃したひったくりの男に後を追う事で、このロードムービーは出発する 方や自殺志願、方や犯罪者 そんな社会の不必要者が、互いに疑心案義、又は利用し合い、そして化かし合いながら、山梨側富士山の風穴迄、ドライブが続く それは緊迫感溢れる、胃がキリキリする描写のシーンの連続である 何とか残金を過拗ねて、トンずらしたいひったくり男 自暴自棄になる中で、直感で犯罪者に道中殺されても都合が良いと思っているから、多分26才でなけなしの貯金100万円を餌に、人生最後の依頼主になった志願者 思惑は、互いがカードを見せないようにゲームが進んでいく様子を丁寧に描いている 勿論手持ちカメラの手ぶれや、照明の不手際は、この際どうでもいい その自然感が益々リアルに加速する『自殺への一日』というドキュメンタリーを彷彿とさせるから 車内や道路を歩く撮影方向は、主に後方左右から 首筋から耳、そして横顔がドンドン死神に支配されていく印象が進む
全く以て優しくないひったくり男は、負のオーラを纏う志願者を突き離す返答を繰り返す その言葉の暴力はどんどん志願者を蝕む 山梨のICを降りたところで眠気に襲われる志願者から残金を盗もうとバッグに手を入れるとそこにはロープ 全てを悟ったひったくり男は途中休憩のスーパーで、男を降ろし、車で逃げる 逃げられたことを理解した志願者は近くの神社で富士山の絵が描かれている絵馬を眺めて、コイントスをする 何を占ったのか、しかも結果は見ずに捨てられたスーパーに戻ればひったくり男は戻っていた やはり残金が欲しいのだろう、その男の或る意味プロ根性に安堵した志願者は最後の食事をするためカフェに寄る 志願者は最後の晩餐に砂糖を掛けたトーストを窒食する その苦しさを練習するために・・・ そしてひったくり男にもうひったくりは止めて欲しいと懇願するが、男はつっけんどうに言い放つ「おめぇに言われたくないんだよ」 一連の受け答えの意味の取り違えは互いの男達は丸で気付かない ここで志願者は別れを告げ、残金を渡し、礼を言う「あなたを選んで本当によかった」 多分志願者は今迄の人生でこれ程他人と真剣に顔を突き合わせたことはないだろう 繕っていないから相手は嘘無く本音をづけづけ畳み掛ける その本音に志願者は嬉しかったのではないだろうか きちんと自分を追込んでくれて、そして決意の後押しをしてくれたと・・・
そして、未だ雪が残る樹海へのぬかるみに足を取られ、転びながら最後の死に場所を彷徨う路で、突然、ひったくり男が志願者に飛びかかり組んずほぐれつで歩みを止めさせる 一つも台詞がないだけ、そのシーンは緊迫感のクライマックスである 最後で志願者は、このひったくり男の本意を理解したのだろうか、それとも止めたくれたことに嬉しさが宿ったのか、それとも残念と観念の入り交じった苦い汁を飲み下したのだろうか・・・ トボトボと引き返す先には、この地に連れてきてくれたレンタカーとひったくり男 男達は黙って車に乗る 台詞など陳腐だこうして只、今日逢ったばかりの二人が未だ生きている・・・
非常に心打つ出来映えであり、細部のリアリティは感嘆するより他ない そして、タクシーではなく、電車バスを乗り継げば、誰とも関係を結ばず彼の地に行けることはスマホで直ぐに調べられる 経験してるから分ることだ
でも、犯罪現場を目撃する悪い意味でチャンスに囚われたこの志願者は当初の目的、上手く自死したい願望を、100万円のbetで、負けたのである これを幸運と呼ぶか悔恨と呼ぶか、観客の判断に委ねる造りである
死ねなかった男は、この先、もっともっと深い闇に苛まれる筈である・・・ 脚色が俄然光る、最大級のストーリーであった