「静謐さの中に流儀と陶酔がみなぎる」ザ・キラー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
静謐さの中に流儀と陶酔がみなぎる
どこかアラン・ドロン主演『サムライ』を思わせる色味とストイックさと殺し屋の流儀を漂わせながら、フィンチャー最新作は細部まで精密に計算され尽くした構造物たる映像世界をファスベンダーのモノローグがゆったりと浸していく。彼に名はない。表情もない。この男の顔や体つきはうちなる感情をストレートに映し出すことなく、飄々とした掴み所のなさを印象付ける。いつものフィンチャー作品と同じく、矢継ぎ早に何かが起こったり、目くるめく展開で観る者を高揚感に巻き込んだりもしない。本作の大部分は静寂だ。しかしそれでも、この映画には切れ目なく電流が流れていて、我々の身と心は気づかぬうちにすっかり感電して、それが心地よいとさえ感じている。この不思議。陶酔。「対価に見合わないことはやらない」と彼は言う。だがそもそも復讐とは最も感情的な行為であり、金銭的な対価を伴わない。これは彼が彼なりの作法で、感情を激烈に燃やす物語なのだ。
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